2022年9月1日~10日

 

9月1日

時々、面倒くさいけど。 ジャガピヨ
「ピヨ彦、オセロするか?」 「いいけど…」 「オレが勝ったらチューするからな」 ジャガーがパチパチと真ん中に、白黒交互に石を置いていく。ここのところ毎日オセロをしている。こんな手順を踏まないとキスもできない関係だった。 ピヨ彦もまあ最近はギリギリのところで負けるのが上手くなっていた。

別れてください ジャガとピヨ
こちらから

 

9月2日

腹を括れ ジャガとピヨ
「珍笛作りがノリにノってるそうじゃないですか〜先生?」
「いや…小遣い稼ぎだから、僕はギターをやるから」
そう言いつつ、新作の原型らしきものを粘土で捏ねている。
「もう笛と一生添い遂げるんだろ?」
「違う」
「いいじゃん〜そんでまた一緒に住もうぜ」
ピヨ彦の手が止まり、本当?と呟いた。

美味しそうに見えた、なんて末期だ ジャガピヨ
家に帰るとピヨ彦がまた床で寝ていた。肩口から腹までバスタオルが巻き付いていて、垂らしたよだれを適宜吸収していた。いつもの短パンから太ももが覗いている。白かった。隙間から今日のパンツを確認していると、なんだか唾液が溜まってきた。オレの右手にはさっきなんとなく買ったごまだれがあった。

 

9月3日

嘘を暴く ジャガとピヨ
「ピヨ彦みて、嘘発見器」
「また変なものを…」
機械に無理やり手を乗せられる。
「全部いいえで答えるんだぞ、ギターより笛が好きだ」
「いいえ」
「ジャガーさんはいつも優しい」
「いいえ」
「恋がしたい」
「いいえ」
警報音が鳴り響く。
「ジャガーさんと」
「いいえ」
警報音は鳴り続けている。

お前ごときに、救えるものか。 ジャガピヨ
社会との違和感、ルーツ、平気みたいに聞いたそれが、後になって、背後からそれに襲われた。
「ジャガーさん、普段みたいに目、閉じててよ」
床に組み敷いた普通の男が言った。
「オレは普通の人間じゃないんだって、」
普通の男の脚がオレの腰に絡んだ。
「知ってるよ、知ってたでしょ、そんなこと」

 

9月4日

据え膳食わぬは男の恥、だし? ジャガとピヨ
昼ご飯がちょっと足りなかったので、台所に置いておいた昨日特売で買ったバナナを1つもぎった。ジャガーの隣に戻って食べる。
ジャガーがすごい顔をして長いため息をついた。
「そういう、笛を感じさせるセックスアピールは他のやつの前ではしないでくれ」
「いや本当に何を言ってるのかわかんない」

不幸の始まり ジャガピヨ
「あのインチキの開運術って、幸運の後に不幸がくるんだっけ」
「たしかそうだねえ、不幸と幸運が順番に」
「じゃあオレは、これから不幸になっちゃうな」
「なんで?」
「だって、ピヨ彦に出会えたことが、一番の幸せだから…サ…」
「ジャガーさん…」
この3日後にジョン太夫は尾てい骨を骨折した。

 

9月5日

恋の代名詞 ジャガとピヨ
「ジャガーさんって、たまに僕の知らない人と遊んでるよね」
「お前だってオレのこと放って隣にゲームやりにいくだろ」
「でもそれは、元々ジャガーさんの繋がりじゃない」
「何、他の誰かとオレが楽しくやってんの、嫌なの?」
ピヨ彦の目線が下に行く。息をすうっと吸って、口を開いた。
「嫌だよ」

おいしいごはんになれるといいけど ジャガピヨ
イケてる男は保湿に気を使うと雑誌にあったので、クリームを買ってきた。風呂から出て、手に取り、腕に塗る。
「背中塗ってやるよ」
近づいてきたジャガーが、大量のクリームをピヨ彦の背中に塗りたくった。塗るというより揉み込んでいる。痛い。男のたしなみというよりこれは下ごしらえだ、と思った。

 

9月6日

人恋しい冬に、ひとりぼっちだ ジャガとピヨ
珍笛作りを適当にこなして、ただコタツがあるだけの部屋に帰る。それだけの日々を過ごす背中に寒さが登った。街灯がしぱしぱと住宅街の塀をグレーに照らした。
突然視界が暗くなった。
「ただいま」
マフラーだ、とピヨ彦は思った。
「なんでこんな時に帰ってくるの、好きになるに決まってるじゃんか」

御冗談もほどほどに ジャガピヨ
「今日暑いなぁピヨ彦、絶好のおでん日和だな」
「うん」
「そろそろクリスマスの飾り付けするか」
「へぇ」
「ネコって英語でヌェイコゥっていうの知ってるか?」
「そうなんだ」
少しの沈黙のあと、ピヨ彦が顔をあげる。
「…なんてね、冗談だよジャガーさん、ジャガーさん?え、うそ…泣いてる…」

 

9月7日

御不満ですか? ジャガとピヨ
雨が降る中、コインランドリーで乾燥まで済ませたピヨ彦が、あっと叫んだ。温かな洗濯物の中に、ニットに目覚めたジャガーの手編みマフラーが混ざっていることに気がついた。大胆に縮んだそれはなんか大きなひじきみたいになっていた。
「それオレのマフラー?」
「ごめん」
「いいよ、壁に飾ろうぜ」

オオカミさんの味見 ジャガピヨ
飲み屋を出る。ほろ酔いをちょっと超えて、足元が覚束ない。ジャガーがニヤニヤしながら肩を抱いてくる。
「おにーさん、お家どこ?送ってあげようか?」
「え〜でも、なんか危なそう〜」
「いいじゃん、彼氏とか待ってんの?」
「彼氏も飲み歩いてるよ」
「どんな人?」
「髪の赤い、フフ、こんな人」

 

9月8日

花言葉で愛を告ぐ ジャガとピヨ
「あれ?ジャガーさんだ」
「おう、一緒に帰ろうぜ」
バイトのシフト終わり、花屋の店先の鉢植えのそばでジャガーがしゃがみ込んでいた。
「これの花言葉知ってるか?」
「ウツボカズラ?こういうのにも花言葉あるんだ」
「【こういうのにピヨ彦が捕まってたら興奮する】だ」
「うん…絶対違うよね?」

共犯者 ジャガピヨ
夜更かしをしている。時計の針が頂点を越えた。布団の中で漫画を読んでいると、隣でジャガーさんがそわそわとし始めた。
「どうしたの」
「まだ寝ないのかピヨ彦、」
グッと顔が近づいて、ドキッとした。
「いけないこと教えてやろうか」
「え、なに…」
「…この時間に食べるラーメンが、一番美味い」

 

9月9日

給料三ヶ月分の、 ジャガとピヨ
指輪の形の飴を買ってきた。
「懐かしい、これ」
だよなー、と言いながらピヨ彦の手から飴を奪う。封を開け、当然のようにピヨ彦の左手の薬指に慎重に嵌めていく。成人男性の指には小さすぎるそれは関節に突っかかって、なぜか耳が熱を持った。
「…何味がいいの」
「オレいちご」
「…左手出してよ」

隣に違和感、視界に不具合 ジャガピヨ
「目になんか入った、痛い」
「見ようか?」
ピヨ彦に顔を預けると、目の下をグイと引き下げられた。まつ毛入ってる、取るね、とピヨ彦が慎重に目の縁をなぞる。普通に顔が近くて興奮した。口を近づけるとピヨ彦が避けた。
「なんで嫌がんの?」
「いや、だってみんないるし」
そういえば教室だった。

 

9月10日

味見と毒見と、 ジャガとピヨ
「飲んでみてくれ」
「やだなぁ、なんか怪しそうなんだもん」
「いいから」
朝起きたら机にグリーンスムージーのようなものが置かれている。このままだと家から出させてもらえそうにないので、ひと口飲んだ。
「味?…は普通だね、何入ってるの」
「ヨーグルト、小松菜、バナナ、リンゴ、エッチな薬」

なんだかなあ、 ジャガピヨ
今日はよく晴れている。窓際でゴロゴロしていたら、ジャガーが覆いかぶさってきた。重くて身体を捩ると、ジャガーの身体がずるりと横に落ちて、後ろから抱きしめられる。擽ったい。
「なに、するの」
「しないよ」
ジャガーがピヨ彦の肩口に顔を埋める。
「あ〜干した布団みたいな匂いすんなぁ、お前」