2022年11月5日 共犯者 / 本気にしないよ、それでいい?

「世界中が敵になっても、オレはピヨ彦の味方だよ」
肩口から胸に続くなだらかな丘に頬を乗せていると、ジャガーの声が降ってきた。ジャガーは腕枕をしようとしてくるが、以前一晩そうやって過ごした翌朝に腕が痺れて使い物にならなくなっていたのを見て、それからピヨ彦は胸に頭の重さを預けるようにしていた。左耳からは空気の振動で、右耳からは肉体の柔らかさの奥から響いて、脳に入っていく。
「JPOPだ」
「あるあるだけど、本当にそう思うんだ」
「世界が敵にって、僕が何するっていうの」
「人を殺したりとか」
「しないよ」
「全裸で街を歩いたりとか」
「もうしないよ」
「銀行から金を盗んだりとか」
「それは間池留さんでしょう」
「……うーん、まあその、これからの人生、なんかよくないこととかあるかもしれないだろう、カッとなることとかもあるだろ、そういう時にオレがちゃんとそばにいるよって」
「いやだから、そういう時は大体ジャガーさんがいるんだよ、首謀者なんだよ」
ピヨ彦の根は人並みに善良であった。一度だけ勾留されたことはあったが、しかしその時にもジャガーは隣にいた。コンクリートの床を思い出す。一人だったら耐えきれなかったかもしれないと思ったが、それはきっとジャガーも同じだった。
うーんとジャガーが唸って、ピヨ彦は右耳から聴こえる音をマグマが煮えたぎっているようだと思った。
「なんか、言いたいことは、その、どんな悪い時でも一緒にいてやるからなってことなんだよ」
「病める時も健やかなる時も、でいいんだよそういうのは」
ジャガーの視線が刺さるようで、ピヨ彦はぐるりと寝返りをうった。ジャガーの身体が追いかけてくる。
「そういうのって、お互いの約束じゃん。ピヨ彦も、オレが病める時にそばにいてくれるのか」
「いいよ」
「そうか」
ジャガーの腕が身体に巻き付いて、動けなくなる。
「ずっと一緒にいような」
ピヨ彦は目を閉じて、嘘だ、と思った。すぐにどこかに行ってしまうくせに。みぞおちが灼かれるようだと思った。