2023年1月1日~10日

 

1月1日

彼氏気取りかよ ジャガピヨ
ジャガーさんが賽銭を入れて拝んでから3分くらい唸っていた。
「ピヨ彦は何お願いした?二重跳びできますようにって?」
「いや小学生じゃないんだから。…普通にギターの上達だよ。ジャガーさんは?」
「ピヨ彦に変な虫が付きませんようにって」
「他は?」
「ん?それだけ」
「あんなに長く粘ってたのに?」
「うん」

君が沈んだ海に告ぐ ジャガとピヨ
「ピヨ彦、全部無かったことにしよう」
オレがそう言うと、ピヨ彦が目を丸くしてこちらを見た。驚きと絶望の宿る黒目を初日の出が透かしている。
「ああ、違う違う。オレたちの関係じゃなくて、今やったこと、」
崖下の海にはもう、レンガをくくりつけたブルーシートの塊は見えない。
変な虫つかないように、祈ったんだけどなあ。

 

1月2日

わるいおとな ジャガとピヨ
「ジョン太夫じゃん、お年玉ちょうだい」
「ジャガーさんやめなよ、ジョン太夫くん不幸になっちゃうよ」
「ええ〜!?いやぁ〜、新年早々こんな友人に会ってしまうなんて不幸だ…これはラッキーですよぉ、いい一年になりそうです」
「結婚するからご祝儀もちょうだい」
「え…?あ、お幸せに…いや、不幸…あっでもそんなこと言えない…お幸せに…」

どこへ帰ればいい? ジャガピヨ
「ピヨ彦ん家って、いつもこうなの?」
「…たまたまだよ」
正月の挨拶を済ませ、昼ご飯を食べて行きなさいと言われ席に着くとガパオライスが出てきた。
「ごめんなさいね、お正月らしくなくって」
「や、すごい美味い、ご馳走様です」
「こんなんでよかったら、いつでも食べにきてね」
「ピヨママ…」
「呼び方」

 

1月3日

その色は誰の色? ジャガピヨ
固い床で目が覚めた。点いたままの蛍光灯、テレビ、こたつ。正月にはよくあることだ。背骨を軋ませながら窓の方を見ると、もうすぐ日が出るらしく上の方から濃紺、ピンク、オレンジのグラデーションが連なって、隣で眠る男の髪の色に繋がっていた。人差し指でその境界線をなぞる。うっすらとまた眠気が来る。

春に誘惑、桜に恋を ジャガとピヨ
目が覚めると近くの商業施設の「新春初売り!」のCMがやかましく流れていた。時計を見るともう10時で、まだ寝ていたいような、起きなければいけないような、そんな気持ちになる。隣のピヨ彦を揺さぶる。どっかいくか?ピヨ彦は唸りながら寝返りをうってそっぽを向く。頬に付いた畳の後が桜色になっている。

 

1月4日

第三者いわく、 ジャガとピヨ
「おお、ジャガーくん」
「やっくん、あけおめ。店開けてんの?」
「市場が開くのが今日からでね、まあ今日は去年の予約モノが主なもんさ」
店の奥に山積みになった箱を眺める。
「ピヨ彦くんのおかげで店頭でも花が売れるようになって、仕入れも楽しくてね」
「そっか」
「明日からまた頼むって、言っといてくれよ」

良い子、でしょ ジャガピヨ
家に帰るとおかえりの言葉も無いくらいにピヨ彦は寝正月を貫いている。悪い子だ。冷えた手で頬を揉んでやる。
「わあ〜なになになに」
「おかえりは?」
「おかえり…」
「やっくんと会ったけど、お前のこと褒めてたぞ」
「なんて?」
「明日遅刻したら殺すって」
「意外とそういうこと言わないんだよやく丸さんは」

 

1月5日

お仕置き ジャガとピヨ
いいか、ピヨ彦。やって良いことと悪いことがある。そりゃオレだってお前の手を温めてやりたいよ。でもさ、腹って急所だから。オレがいくらお前のことを愛しているからといって、腹巻きに冷たい手を差し込まれるとびっくりするだろう。今度やったらただじゃおかないぞ。いいか。なに、テレビ見るの。なんか面白いもんやってる?あっ、バカやめろ!コラ!!

その色は誰の色? ジャガピヨ
「式とかはしなくてもさ、写真とか撮るか」
薬指に嵌った指輪をくるくると回す。まあ、恥ずかしいけれど記念の写真くらいはいいだろう。
「なんかタキシードとか借りるの?」
「ドレスとか、何色がいいとかあるか」
「僕着ないよ」
「ピヨ彦着ないの!?」
「着ないよ」
「オレは!?」
「着たかったのー!?」

 

1月6日

もっとアドリブで恋したい ジャガとピヨ
いつか絶対に土下座させてやる。灰かぶりと呼ばれていたジャガーは、お城の舞踏会へ向かう継母たちを見送り、そう呟きました。すると、ぴよぴよとした魔法使いが現れ、こう言いました。
「ああ可哀想な灰かぶり。舞踏会へ行かせてあげましょう。かぼちゃを用意して」
「さっき煮付けちゃった」
「煮付けちゃったんだ」
魔法使いがひと口かぼちゃを食べると、なんと美味しいこと。2人はすぐさま惣菜屋を始め、幸せに暮らしました。

最近可愛くなりまして、 ジャガピヨ
ジャガーさんがご機嫌そうに本をめくっている。中学校の卒業アルバムだ。僕の。
「また勝手に実家に…」
「新しいグッズ作ろうと思ってさ」
3年2組、酒留くん、とふんふん歌いながら個人写真を撫でている。妙に恥ずかしい。
「あれ?ちょっとこれ、お前…」
「なに」
「今の方が確実に可愛くなってる…」

 

1月7日

泣けない子 ジャガとピヨ
君と別れるなら、夏がいい ジャガとピヨ
こちらから

 

1月8日

別れてください ジャガとピヨ
今日はサヤカちゃんと会うらしく、朝からソワソワとしている。うちには小さい鏡しかないので、オレに向かって服装が変じゃないかいちいち聞いてくる。大丈夫。かわいいよ。ちょっと待て、恋のおまじないしてやるから。上着の襟元を直して、ポンポンと2回叩く。神様、こいつの恋が上手くいきませんように。

酷い男 ジャガピヨ
「ピヨ彦さんって、あれからずっと元気がないですよね」
サヤカちゃんに珍笛を納品していると、そう声をかけられた。あれから、ジャガーさんから絵葉書が送られてからもう随分経つ。再会に心を弾ませて、待ち続けて、僕は大分疲れてしまっていたのだ。
「私じゃ、支えられないんだろうなあ」
僕は酷い男だ。あの人だって、酷い男だ。

 

1月9日

愛を囁け、恋を論ぜよ。 ジャガとピヨ
「恋とか愛とかに熱中する暇があったら授業をちゃんと聞いたらいいんだ」
「ジャガーさんは授業もしてない」
「ダラダラしてんの。ダラダラすんのが恋とか愛とか授業よりも大切なの。わかってねえな」
じゃあ聞きますけど、いま僕に寄りかかっている背中の熱さは恋とか愛とかではないんですかね?先生。

名もない花 ジャガピヨ
「なんかさ、絵でよくある、花びらがピンクとか赤とかで、真ん中黄色の花ってなんなんだろうな」
「ああ、なんか保育所の壁にありそうなやつ?形はコスモスとかマーガレットとかみたいだけど」
「可愛い花の特徴をミキサーにかけた感じなのか」
「ぐしゃぐしゃにしないで」
「あれをピヨ彦花と名付ける」
「ぐしゃぐしゃにしないで」

 

1月10日

酷い男 ジャガとピヨ
ジャガーさんの顔が近づいてくる。チューしようとしている。顔を背けてみる。
「やめてよ、やだよ」
「なにがやなんだよお前。知ってるぞ、自分が嫌がるのに興奮してるくせして。こういう時にオレがじゃあ止めとこ、ってするとシュンとするくせに。いま顔がニヤついてるのもわかってるからな」
……酷い男。

君をお買い上げ ジャガピヨ
「ジャガーさん、おしり触んないで」
皿を洗うピヨ彦はかわいいなあ。手が濡れてるから抵抗してこないし。後ろに忍び寄っていじくっていたら怒られた。でも減るもんじゃないし。指で突いてみる。
「お金取るよ」
「いくら」
「おしり1回500円」
なんだよ、高えなあ。自分の懐をさぐる。あっ。
「2万あるわ、今」