2022年8月3日~10日

8月3日

幸せがまわる ジャガピヨ
「あれもこれも食べたいなって思うんだけどさ、シャリも食べるから結構すぐお腹一杯になるんだよねえ」
隣に座るピヨ彦の横顔と流れていく寿司を眺める。オレはカニの皿を掬い上げた。
「オレ、正解見つけたかも」
一貫口に頬張った後、皿に残った寿司をピヨ彦に渡す。
「頭いいなあ、ジャガーさんは」

お仕置き ジャガとピヨ
コップを倒した。畳の上に広がった水溜りを二人がかりでタオルで拭き取っていく。
「今度からこぼしたらさぁ、尻蹴るのと乳首つねるの、どっちがいい」
「尻のほうがいい」
「尻蹴られる方が好きなんだ」
「好きじゃない、そういうことじゃないよ」
「じゃあ乳首つねろうぜ」
「もういいから蹴ってよ」

 

8月4日

しんでるにんげんなんか、こわくないさ ジャガとピヨ
実家で食卓を囲んでいると、父次郎が清彦の幼少期の話をした。天井のシミを怖がっていたこと、夜中にトイレに行けなかったこと、月並みな話ばかりだったが、ジャガーは笑いこける。
「…ジャガーさんはさ、もし夜中にトイレ開けたら、歯医者さんいたらどうすんの」
ジャガーはその後口を開かなかった。

いずれまた、どこかで ジャガピヨ
「あれからいろんなとこ巡ったけど、ここが一番綺麗だったからピヨ彦に見せたかったんだ」
ジャガーの隣で、ピヨ彦は眼下に広がる青い海を見た。確かに美しいと思った。
「ありがとう、ジャガーさん、
だけどさ、月に現地集合はないよ」
ごめんなあ、と宇宙服のヘルメットの中から楽しげな声がした。

 

8月5日

幸せの終わり ジャガとピヨ
ジャガーが今日ガリ寮を立つ。とにかく海外に行くらしい。大量の荷物を背負って、それじゃ行ってくるわとジャガーは言った。
「ジャガーさん、今までありがとう。楽しかった、僕」
鼻の奥がツンとする。俯いて目を合わせない同居人に小さく、ピヨ彦、と語りかけた。
「これで終わりだと思ってんの?」

「癒しが欲しい」「俺とかどう?」 ジャガピヨ
動物番組を見ながら、癒しが欲しいと呟く。
「オレを触ればいい」
そう言われて、見た目よりは柔らかな髪に手を埋める。わしわしと両手で髪を逆立て、撫でつける。左手で頬を、右手で眉毛をぐりぐりとなぞると、ジャガーがもうやめろ、と小指の付け根に噛み付いた。
これだからネコ科は、そう思った。

 

8月6日

大人になりたくない ジャガとピヨ
「ピヨ彦って将来ハゲるのかな」
なんて嫌なことを、とピヨ彦は思った。つむじをグリグリと押す手を跳ね除ける。
「でも母方のおじいちゃんはそんなハゲてないから」
じゃあ白髪か〜、とジャガーが言う。
「オレに抜かしてくれよな」
一緒に歳をとってくれるなら、それならちょっと悪くない気がした。

始めから壊れているの ジャガピヨ
こちらから【R-15】

8月7日

いや、うん、うっかり。 ジャガとピヨ
ジャガーが気まぐれに服を脱ぎ出すのは普段通りだったが、明らかにパンツがピヨ彦のものだったので問い詰めると、ジャガーはエェ!?と大げさに声を出した。 「うっかりしてた」 「普段ブリーフなのに間違えて履かないでしょ」 「なんか、柄が、ピヨ彦にしてはおしゃれだったから…いいなと思った…」

隠し通してみせるさ ジャガピヨ
そういう関係になってから、周りにはバレないようにしようとお互い気をつけていた。それでもやはり上に住人がいるのは気を遣う。
ある夜ジャガーがパンパンと手を叩いて、ハマーを呼び出す。
「何でござるか?」
「ちょっと今から2時間くらいどっか行って」
「そういうホテルみたいな時間出すなー!」

 

8月8日

春に誘惑、桜に恋を ジャガとピヨ
満開とはいかないが、ほどほどに咲いた桜の下で弁当を広げた。
「まあね、来年は女の子と来たいけどね」
「女と付き合って何が楽しいんだよ」
「こうやってお花見したりとか」
「オレでいいじゃん」
「なんか、映画見たりとか」
「オレでいいじゃん」
「…セッションしたりとか」
「オレがいいじゃん」

花言葉で愛を告ぐ ジャガピヨ
ピヨひこ堂から帰ってくると、ピヨ彦はため息をついた。今日はサヤカちゃんが来なかった。
おかえり、と言うジャガーの手には薄紫色の細長いつぼみと、2輪ほどラッパのような花が可愛らしく開いていた。
「ちょうど今の季節にいいから、やっくんから貰ってきた」
「へえ、綺麗だね、リンドウだっけ?」

 

8月9日

覚えてもいないくせに ジャガとピヨ
結局謎の行事になってしまったガリフェスを終えて、僕たちは煤だらけのまま、ステージの背景の布を体に巻き付けて帰った。12月の風がどうしようもなく吹き付ける。唇を震わせながら、ジャガーが言った。
「帰ったら、一応ケーキある」
「風呂だよまずは」
「ケーキ、風呂、オレ、どれにする」
「風呂」

神様に恋をした ジャガピヨ
小さな神社が目に入った。ピヨ彦から5円をせびる。鈴を鳴らしたり手を鳴らしたり、そこで特に願いがないことに気づいた。一応ピヨ彦が優しくなるように祈っておいた。
帰り道、隣の手を握る。なぜか振り払われなかった。
「まあ、いいよ、たまには」
神様がいるとしたらこいつの顔をしていると思った。

 

8月10日

その靴を脱ぎ捨てて ジャガとピヨ
柔らかい砂に裸足を埋めると、波が足首を攫おうとした。潮の香りを肺いっぱいに吸うととにかく気持ちいい。しばらく波打ち際を進むと黒い海藻が落ちているのを見つけた。声を張り上げてジャガーに呼びかける。
「ジャガーさん、ワカメ落ちてる!」
「おっ、やるなピヨ彦。こっちには油揚げがあったぞ」

言い訳はバッチリさ ジャガピヨ
ハマーが階下へ行こうとすると、天井板が外れなかった。やっとの思いで動かすと、下からガムテープで塞がれていたようだった。
なんてことするんだYOと言いながら顔を出すと、2人はなぜか顔を真っ赤にしながらお互いの両腕を掴んでいた。
「さっき、テープ好き男が来て、貼らせてくれっていうから…」