2023年3月21日~31日

 

3月21日

どこへ帰ればいい? ジャガピヨ
「酒留さん、凍狂にはいつ戻られるんですか?」
「帰りの飛行機取ってなくて…戻っても一人なんで、観光でもしようかなと」
「今日飲みに行きませんか?」
「ほんとですか?ありがとうございます。すみません、ちょっと電話が……」
珍しい楽器を集めた展示に酒留さんが出てくれたのはありがたいことだった。話しやすかったので仲良くなっておきたい。ちょっとそこの君、酒留さんの好みの食べ物とかって知らない?
「酒留さん、急用ができたとかで帰られましたよ」

お前ごときに、救えるものか。 ジャガとピヨ
日本に帰ってきたよんと告げると電話の向こうでピヨ彦が唸り声をあげた。地方にいるらしい。
「僕にだって予定があるんだからさあ、前もって言っといてよ」
「別に、オレ鍵持ってるし無理しなくていいよ」
「今日中に帰るよ今飛行機取ったから」
「飲み会とかあんならそっち優先しろよ」
「行くわけないじゃんジャガーさんが帰ってきたんだったらさあ!」

 

3月22日

心臓が痛い ジャガとピヨ
友達がいていいですね。ジャガーさんが出て行った玄関を眺める。今日はご飯いらないんだって。台所に手をついてしゃがみ込む。喉の付け根が痛い。上手く息ができない。ガチャリと鍵の開く音がした。
「忘れ物……ピヨ彦どうした」
「どうもしてない」
なんかしんどいならちゃんと言えよ、ジャガーさんはそう言って夜まで僕の背中を擦り続けた。

もっとアドリブで恋したい ジャガピヨ
頭の中で何回も台本を繰り返した。いつもみたいに、さりげなく、ちょっとふざけた感じで。言うぞ。好きだって。そしたら「突然なに!?」とか、「やめてよ〜」とか返してくるだろう。でも、意識してもらうことが大事だから。うん。ピヨ彦、オレ、あの、お前のこと、好き、なんだよね〜……ハハ……。
「いや、僕の方が好きだと思うけど……」

 

3月23日

据え膳食わぬは男の恥、だし? ジャガとピヨ
バイトが終わって家に帰ると、ジャガーさんが窓辺で眠っている。自分の腕を枕にして、呑気に鼻ちょうちんを出して、涎だって垂れている。あー、夕飯を作らないと。でも、いや、ちょっとくらい、ジャガーさんの腕から腹、足にかけてのカーブを、僕の背中に添わしてみてもいいんじゃないか。誘惑に負ける僕の人生。

君をお買い上げ ジャガピヨ
目が覚めると世界のすべてが腕の中にあってびっくりした。脇腹に手を回してぐいと引き上げて、頭をオレの二の腕に乗せてやる。髪の匂いを嗅ぐ。涎が垂れている口を指でつまんでやると、もにょもにょと間抜けに動いた。ピヨ彦の目が覚めたら、今日は出前にしようって言おう。夕飯作る時間、もったいないから。

 

3月24日

結局は、君に辿り着く。 ジャガとピヨ
「今晩そっちでご飯食べてもいいでござるか?」
「いいよ、ちょっと多めに作るから」
「今日のおかずは?」
「生姜焼き。ジャガーさんが食べたいって言ってたから」
「ピヨちゃんお茶碗変わったでござるか?」
「なんかジャガーさんが買ってきた」
「そんな服持ってたっけ?」
「これはジャガーさんがくれた」

終わりのない夜 ジャガピヨ
ジャガーさんが黄色い袋をガサガサ言わせながら帰ってきた。
「ジャガーさんさ、定期的にドンキ行くのやめてよ。一緒に無印良品みたいな家にしようって約束したじゃん」
不服そうな顔をしたジャガーさんが箱を取り出す。ミラーボールだ。最悪。
「これつけながらダンレボの曲流すから」
「アイヤイヤじゃないんだよ」

 

3月25日

幼馴染、やめたいんだけど ジャガとピヨ※幼馴染パロです
4月から街の大学へ行くために一人暮らしをする。その荷造りをピヨ彦が手伝ってくれているが、どう見ても手が止まっている。いつものピヨ彦ではない。
「ピヨ彦はどんなとこ目指してんの」
「うん」
「お前も卒業まで2年しかないぞ」
「うん」
「追いかけてくるだろ」
「……え?」
「一緒に暮らすだろ」
「……うん」

名もない花 ジャガピヨ
隅っこの席でラーメンを手繰る。ふう、と息を吹きかけると食堂中に響き渡るような音量で名前を呼ばれた。
「ピヨ彦!ピヨ彦ー!」
「ねえ、おっきい声やめて、恥ずかしいから」
お盆を持ってやってきたジャガーさんが隣に座る。
「よくわかったね、いっぱい人いるのに」
「ピヨ彦ってちょっとキラキラしてるから、どこでもわかるよ」

 

3月26日

グラスにうつった真実 ジャガとピヨ
最近は怒るというよりはピヨ彦の注意散漫さと握力が心配になってきた。飲み物をこぼしすぎている。広げた新聞に慎重にグラスの破片を移していく。
「わざとやってるだろう」
「そんなことないよ」
「尻蹴られたいんだろ」
「そ、……んなことないってば」
「そうじゃなくても、蹴られたらまあそれはそれでって思ってるだろ」
グラスの断面がぎらりと光った気がした。

お代はキスでいいよ ジャガピヨ
好きな子とキスできるんだったらいくらまで出せる?とジャガーさんが聞く。低俗だな。とりあえず「ジャガーさんは?」と聞き返すと、うーんと唸った。
「3000円くらい」
そう、3000円ね、ふーん。へえ。
「ジャガーさん」
「ん?」
「10万円くらいちょうだい。今までの分」
「それはオレだって10万もらわないと割に合わない」

 

3月27日

もっとアドリブで恋したい ジャガピヨ
雨で少し桜が散ってしまった。川沿いの遊歩道をだらだらと歩いている。桜の花びらを掴むと願いが叶うって知ってるか、とジャガーさんが言った。ちょうどよくびゅうと風が吹いて、はらはらと舞い散ってくる。全然掴めない僕を見てジャガーさんが笑う。なに、ジャガーさんは取れたの。ジャガーさんは僕の頬にいつの間にか貼り付いていたらしい花びらを掴んでもう一度笑った。

第三者いわく、 ジャガとピヨ
この時期は訳もなく団子なんかを食べたくなる。スーパーで3本入りを買った。川沿いの遊歩道で桜を見ながら1本食べる。思いの外甘かったズェ。残りを持て余していると、向こう岸にジャガーとピヨ彦が歩いているのが見えた。おーい、と声をかけようとしたその時風が吹いて、目にゴミが入った。目を擦りながら開けるとジャガーがピヨ彦の頬に手を添えていた。団子は自分で全部食った。

 

3月28日

Be mine forever. ジャガとピヨ
やっぱりどうしても作曲ができない。拙者の作ったリリックが日の目を見れないなんて。ここはもう一回ピヨちゃんに頼んでみるしかない。床、もとい天井板をぱかりと外して下を見ると、ジャガー殿だけいた。
「あれ、ピヨちゃんは?」
「バイトだけど。なんか用」
「ちょっとピヨちゃん借りたいんだけど」
「やだ」

幼馴染、やめたいんだけど ジャガピヨ※幼馴染パロです。
とうとう引越しの日がやってきた。なぜかハメ次郎と母江さんまで見送りに出てきてくれた。
少しだけそっぽを向いているピヨ彦を抱きしめてやる。いや、別れの場面だから。このくらい自然だし。
「来週帰ってくるから」
「早いなあ」
うん、お前は笑ってる方がいい。抱きしめるついでにパーカーのポケットに入れてやった鍵のことも後で気づけばいい。

 

3月29日

「新手の誘い文句ですか?」 ジャガとピヨ
心臓が痛い ジャガピヨ

「合コンってのに行ってみたいと思ってる」
ジャガーが突然そう言うのでピヨ彦のマンガを捲る指が止まった。そんな堂々と浮気するやつがあるか、と思った。
「え何、どういうこと」
「行ったことないなと思って。人生何事も経験だから」
「誰かに誘われたの」
「いや? ピヨ彦と行く」
いつものことだが妙に話が噛み合わない。
「……女の子と飲みに行きたいってこと?」
「違うよ、何言ってんだ。ピヨ彦と行きたいの」
一対一で。そう付け加えたジャガーの目があまりにも真剣だったので、とりあえずピヨ彦は話を続けることにした。
「あの、それは、普通に飲みに行くってのと一緒だよね」
「違う」
「違うんだあ?」
ジャガーが精一杯身体を動かしながら伝えたのはこうだった。とにかくお互い初対面のフリがしたいこと。自己紹介から始まってだんだんと親しくなりたいこと。それをピヨ彦でやりたいこと。
「つまりその、恋がはじまる予感みたいなのをもう一度味わってみたいんだよ」

ガヤガヤとした空間、2人掛けのテーブルに座る。オレンジ色の電球が眩しい。居酒屋の名前が印字された箸袋をくるりと回すと、チェーン店だったようで他の街の名前と電話番号が書いてある。それを眺めているとすみませえんと作った声が降ってきた。
「迷っちゃってえ、ちょっと遅れちゃいました」
「あ、全然、待ってないです。今来たところで」
「今日はよろしくお願いしますう」
「あ……よろしくお願いします……」
「何頼んだ?」
急にフランクになるジャガーに戸惑いつつ、何も、と答えると壁に立てかけてあるメニューを開いて目の前に見せてきた。
「コーラでいい?」
「あ、うん、いいけど」
飲み物のページを素早く捲り、もうおつまみを選んでいる。え〜迷っちゃうなんて言いながら。キャラがぶれている。
「枝豆と……ポテトと……焼き鳥の盛り合わせ……」
「うん」
「チャンジャって何」
「なんか魚の……塩辛の辛いやつ、キムチみたいな、ジャガーさん絶対好きじゃないからやめた方がいいよ」
「初対面ですよね?」
やたら大きな声ですみませえんと店員を呼ぶ。コーラ2つ、枝豆、フライドポテト、チャンジャ、あと焼き鳥の盛り合わせ2人前。注文を終えたジャガーが、ふう、とひと仕事終えたようにメニューを戻す。頼みやがったな、とピヨ彦は思った。おしぼりをもぞもぞさせている間にお通しらしきゴマ豆腐とコーラ、枝豆、チャンジャがやって来た。
「じゃ、今日の出会いに乾杯」
コーラをカチリとぶつけた後、ひと口飲む。手についた水滴をおしぼりで拭う間に、ジャガーが割り箸を割る。チャンジャをひと舐めする。
「あんまり好きじゃない、これ」
「だから言ったじゃん」
思った通りの結末に思わず吹き出すと、ジャガーもフッと笑った。
「自己紹介どうぞ」
「…………」
「どうぞ」
「……酒留清彦です。サッキーって呼んでください」
「清彦くんか。ピヨ彦って呼ぶね」
「自己紹介の意味ある?」
「オレはジャガージュン市。今日は一生幸せにするぞって思ってやってきました」
「早いし重いよ」
「モツ煮頼んでいい?」
「いいよ」
ポテトフライを持ってきてくれた店員さんに追加のモツ煮を頼む。ジャガーが枝豆を噛んで鞘から出しながら言った。
「オレ、ピヨ彦くんのこと結構タイプだな。ちょっと素朴な感じ。可愛い系だよね」
勝手に口の中に入れられるポテトフライを咀嚼しながら、あ、どうも、と返事をする。
「どう? オレのためにみそ汁作ったりしない?」
「あさげならできます」
「オレあさげ好き!」
焼き鳥やモツ煮を少しずつ平らげながら、変な会話は続いていった。「普段は何してるの?」という質問にピヨ彦が落ち込んだりもしたが、普通にただの外食だった。
「そういや、ピヨ彦くんはどんな人が好き?」
「……優しい人」
「オレかあ〜」
「リードしてくれる方がいいです」
「それもオレかあ〜」
「いっつも変なことするけど、ついしょうがないなって許しちゃうような人」
「オレすぎるなあ」
「……あと、」
「あと?」
「僕なしじゃ生きてらんないみたいな人」
「…………」
「………………」
「オレだなあ」
「そうですね。甘いもの頼んでいい?」
「いいよ」
メニューにかけた手にジャガーの手が重なる。
「この後って、期待していいのか」
「……いいよ。てか普通に同じ家に帰るんだから」
「お腹痛い」
「え?」
いたって普通の顔に見えるジャガーが言う。
「お腹痛くなってきたかも」
「お手洗い行ってきなよ、ご飯屋さんでお腹痛いとか言わないの」
「じゃあ胸が痛い」
「じゃあって、」
「家帰れない。横になりたい」
「なに、どういうこと……」
そこまで言って、ピヨ彦は居酒屋を出て一本裏に入ったところに休憩とか宿泊とか書いてある通りがあることを思い出した。ほんとにしょうがないなあ、この人は、ピヨ彦はそう思った。

 

3月30日

君のいない春に眠る ジャガとピヨ
掛け布団からはみ出た背中が冷えて起きてしまった。もう暖房をつけて寝なくてもいいと思ったのが誤算だった。少し広いマットレスの片側に寄った僕の隣、人ひとり分のスペースが空いている。ジャガーさんがいない。ああくそ、海外だって、宇宙だって、ついていけばよかった。並べられた枕、ジャガーさんの枕をかき抱いた。

悪夢はもう見ない、 ジャガピヨ
部屋に戻るとピヨ彦がオレの枕を盗んでいる。返せ、それ。
「ジャガーさん」
「ん、ジャガーさんだよ」
「帰ってきたの」
トイレからだけど。さては寝惚けてるな、こいつ。
「なんで一緒に連れて行ってくんなかったの」
だからトイレなんだって。
「もう絶対やだ。どこにも行かないで」
わかったよ。行かないよ。枕返せよ。

 

3月31日

始めから壊れているの ジャガとピヨ
ピヨ彦殿がなぜか屋根裏に来ている。ジャガー殿の勝手なところが困るとか嫌だとかつらつら話すのをただ聞いている。
「そもそも2人はなんで一緒に暮らして……」
「ガリプロが決めたから」
「最初に断ればよかったんじゃないでござるか?」
「え?」
「別に今からでも解消すればいいのでは」
「ピヨ彦〜メシは?」
「今降りるってばあ!」

名もない花 ジャガピヨ
「ジャガーさんは、僕がここ出ていくって言ったらどうする」
「絶対やだけど?」
せっかくこんなにそばにいれる権利を手に入れたんだ。他の誰にもピヨ彦に近づいてほしくない。できればこのままずっと一緒に。あれ?
オレってピヨ彦のこと好きなのかな?と聞くと、ピヨ彦は僕に聞かないでよと言った。