8月11日
覚悟はできてる ジャガとピヨ
今週の漫画雑誌を読み終わってしまった。
手持ち無沙汰になったピヨ彦は、隣で寝そべってじっとしているジャガーを見る。寝ているようだった。腹巻きに手を差し込んだ。温かい。薄い脂肪の下、腹筋の形を、手をうにうにと動かしてなぞる。
「触るってことは〜、触られる覚悟があるってことだよなぁ?」
恋を重ねる ジャガピヨ
サンドイッチ用のパンにマヨネーズ、
レタス、ハムを順番に並べて押さえる。2人分を重ね終え、包丁を取りだす。弁当用に半分に切ろうとすると、後ろから手が伸びてきた。
「なに、今危ないよ」
「いいから」
包丁を持つ手にジャガーの手が重なる。ザクリと切ると、共同作業でーすと、耳元で囁かれた。
8月12日
運命を感じろ! ジャガとピヨ
「ジャガーさんさぁ、なんであの時警備員のバイトしてたの?」
「いつ?」
「ほら、あの、シケモクレコード。お茶に笛を…」
ストリートで演奏するだけで小銭が稼げるだろうに、寂れたビルで警備員の格好をしていた。純粋に疑問だった。
「わかんない、オレあの頃ピヨ彦に会うために精一杯だったから」
その言葉が、重い ジャガピヨ
たまに思うのは、本当に自分がこの男の隣にいていいのかということだった。なんでもできて、はちゃめちゃで、
つい、僕ではジャガーさんを幸せにできない、と呟いてしまった。
ジャガーはテレビから目を離さない。
「オレは別にいい」
軽い言葉で続ける。
「幸せになれなくても、別に、ピヨ彦となら」
8月13日
躾はしっかりとお願いします。 ジャガとピヨ
最近、出かけようとするピヨ彦に行ってらっしゃいのハグを強要している。ただコンビニに行くだけでも、どんなにバイトに遅れそうでも。迷惑そうにしながら、手を回してくれるのがたまらなく良かった。
ちょっと出かけようと靴を履いて顔を上げると、今度はピヨ彦が手を広げている。
「…しないの?」
惚気はいいので、用件を ジャガピヨ
ピヨひこ堂にやってきたジャガーが、ピヨ彦のこんなとこが可愛いだの、優しいだの、大切にするだの、ずっと喋り続けている。
何の脈絡もなく褒められ続けて、嬉しいというよりも居心地が悪い。
「何?なんなの、なんかやましいことでも…」
「人聞きの悪いこと言うな、オレは今日は恋バナをしにきた」
8月14日
幸せを、(と祈るだけならば) ジャガとピヨ
マレーシアで人気だというコメディアンの特集が情報番組で組まれていた。本人は楽しそうだがスタジオは微妙な空気で、シュールだとか前衛的だとか言っている。なんだよ、面白いだろ。
ネットでも「理解できない」とか言われている。勝手なこと言いやがって。当たり前だろう。僕が隣にいないんだから。
眠ってしまおうよ。 ジャガピヨ
ジャガーさんに布団を揺すられる。早く起きろねぼすけ、と言われて、キスしてくれたら起きるよ、なんてふざけて言ってみる。唇は降ってこない。目を開けると、ジャガーさんがじっとこちらを見ている。
「え、ごめん、引かないでよ」
「…いや、このまま起きなかったら、ずっとオレのもんだなと思って」
8月15日
名前を呼んで ジャガとピヨ
「ピヨ彦、ふ菓子食うか?」
「…変なあだ名で呼ばないでください」
「ちゃんと呼んでほしい?」
頷くと、ジャガーが四つん這いになって向かってくる。後退りで逃げると、すぐ部屋の隅に追いやられた。頬と耳の間にジャガーの口が当たる。清彦、と囁かれる。
もうピヨ彦でいいです。すみませんでした。
口説き落としてみせる、って ジャガピヨ
ハマーがまた女性関係で失敗している。口説き方を教えてくれ、と泣いてせがまれるので、一緒に悩むフリをしていると、ピヨ彦がトイレから帰ってきた。ちょうどいいタイミングだ。
「おー、おかえり、ピヨ彦。あの、今日も、服とかパッとしてなくて、あれだな、好きだよ」
「え、何…知ってるけど……」
8月16日
わるいおとな ジャガピヨ
ね、可愛いでしょう? ジャガとピヨ
こちらから【R-15】
8月17日
あの星を狙え! ジャガとピヨ
張り込みは長期戦だ。あんぱんを齧ると、警部の手が伸びてきてあんぱんを奪われる。勝手にひと口齧られた。
「あんぱんと葉巻、合うんですか」
警部が葉巻を差し出す。…長い。持つだけで一苦労だし、苦い。
「普通に牛乳のが合う」
「買いに行きましょうか、牛乳」
こうして僕たちは犯人を見失った。
来世は他人がいい ジャガピヨ
人生をやり直せるなら、そんな話になった。スポーツ選手だとか、警察官だとか、子供の頃の夢の話をしていると、「警察いいな」とジャガーさんが言った。
「オレ、ピヨ彦が殉職するまでちゃんと見てるよ」
なんで死ぬ前提なんだ、というかそこでも僕たちは一緒なのか。どこかからラーメンの香りがした。
8月18日
世界の終わりは、幸せで ジャガとピヨ
付き合ってくれ、と言ったジャガーに、わかった、とピヨ彦が返事をした。上を見つめたまま動かなくなったジャガーに声をかける。
「どうしたの」
「エンドロールが来ない」
「恋愛ゲームじゃないんだから、そんなの来ないよ」
目が合う。頬が染まる。指が触れる。
「だって、これから始まるんだから」
御愁傷様、 ジャガピヨ
ついてない。福引きが参加賞のトイレットペーパー1つだった。赤信号に何回引っかかったかわからない。横断歩道を睨んでいると、後ろから声をかけられた。
「いいもん持ってんな」
トイレットペーパーを差し出すと、ジャガーが身体に巻き付けていく。
「すげーいいよ、これ。どこで貰った?ツイてんな」
8月19日
本気にしないよ、それでいい? ジャガとピヨ
「あのさ、僕、寝言で何言ってたの…?」
「いや、大丈夫、オレピヨ彦が本気で言ってるなんて思ってないからさ」
「いいから教えてよ、気になるよ」
ジャガーがバツが悪そうに、毛糸玉を指で捏ねている。
「あれは…あの晩…オレがお前にキスした後……」
「えっちょっと待ってなんでキスしてんの?」
隣に違和感、視界に不具合 ジャガピヨ
不整脈、手の震え、どちらも隣の男を眺めた時に発生する。オレの気も知らないで、どうしたの?なんて心配そうに顔を覗き込んでくる。全部ピヨ彦のせいだ。目の前がチカチカする。目もダメになるのか、オレってもうすぐ死ぬのかな、どうせ死ぬなら好きにやってやろうかな。男の首を掴んで、口を塞いだ。
8月20日
その靴を脱ぎ捨てて ジャガとピヨ
こちらから
愛される覚悟をしておいて ジャガピヨ
「ピヨ彦、好き」
帰り道のくだらない会話の中で、急にジャガーが告げた。えっ、という間もなくジャガーが走り出す。
「友達じゃない好き!」
困惑しながら追いかけるが、足が速くて追いつけない。やっと家に着いた。
僕はどうなんだ、どんな顔をしたらいいんだ、そう思いながらドアノブに手を掛けた。