弱火【R-18】

 ちょっとだけ春っぽいが、天気予報を見ると数日後にはまた寒くなるらしい。今日はお出かけ日和ですとお天気キャスターが言う。オレたちはそんな呼びかけも無視して、ただこたつに入っているだけだった。空気は温い。こたつをしまうには早い。ピヨ彦が「電気の入っていないこたつに入るのはやるせない」だとか言うので、こたつは弱い熱を発し続けている。
 テレビの正面に座っているオレに、車のCMも、柔軟剤のCMも、カレールーのCMですら、外に出なさいよと語り掛ける。外で食ったからなんだってんだ。テレビから視線をずらすと、こたつの右の辺で同じようにテレビを眺めるピヨ彦がいる。オレと同じように、ちょっと退屈そうな様子で顎が上がっている。
 CMが終わって、番組が始まる。衝撃映像45連発。昨日のピヨ彦は衝撃的だった。スパゲッティを茹でる湯を沸かして、塩を入れようとして、固まった塩が崩れずに大量の塩の塊を鍋にぶち込んでしまったのだ。情けない声で小さく叫ぶピヨ彦。
「……どこで笑ってんの?」
 ピヨ彦がオレを見て言った。テレビを見ると、右上に「3」。下には「衝撃の瞬間まであと20秒」の文字がある。オレはピヨ彦のことを考えて衝撃映像を2本見逃し、3本目が始まった瞬間に笑った。
「思い出し笑いだけど。昨日のピヨ彦の。塩」
 それを聞いて、いーっ、みたいな顔をした。可愛くて笑える。ピヨ彦がこたつから出ていくのでそれを目で追った。ピヨ彦は押し入れに向かって、襖を引いて枕を出した。
「オレにもちょうだい」
 戻ってきたピヨ彦が、オレにも枕を渡してくる。さっきまでの定位置に戻って、こたつに胴を入り込ませてピヨ彦が寝転がった。オレも同じように後ろに枕を置いて仰向けに寝転ぶ。こんな怠惰な日も悪くない。ざあっと、外で植木が風になびく音がする。鳥も遠くで鳴いている。衝撃の瞬間まで、5、4、3、2、1、キャーッウワーッ、あっ、嫌かも。テレビの音だけ聞こえるのが逆に妙に興味を惹いてしまう。起き上がって衝撃の内容を知ろうとすると、もう次の映像になっている。むかつく。ピヨ彦を見ると、横向きに寝転がってテレビをぼんやり見ている。なんかズルいな、とオレは思った。
 枕を掴んでこたつから這い出て、ピヨ彦ににじり寄る。ピヨ彦の後ろのこたつ布団を捲り上げて、身体を滑り込ませた。ピヨ彦はオレを一瞥して、不満げな声を1秒だけ上げた。背中に寄り添うようにくっついて、右手は頬杖をついてテレビを見る。頬にピヨ彦の髪が当たる。ボールを追いかけまわしている子犬が段差で1回転した。まあ、うちの方が可愛いですけど。ピヨ彦の髪の毛を嗅ぎながら、地球温暖化のイメージみたいに湯に崩れていく塩の塊のことを思う。
「ぬるい……」
 ピヨ彦が髪を押さえながらこちらを振り向く。
「見なくていいのか」
「……衝撃人間見る」
「お互い様だろう、それは」
「構ってほしいんでしょ、甘えんぼ」
 ピヨ彦がグーでオレの肩を柔らかく押す。何も言わず見つめ返すとグーは解かれて、オレの頭を2回撫でた。
「ピヨ彦、腕枕して」
「ええ?」
 もぞもぞ動くピヨ彦。開かれた左腕に頭を乗せるとちょっと笑った。
「頭撫でてくれ」
 ピヨ彦の右手がもう一度オレに被さる。わざとらしく「おーよしよし」なんて言いながらオレを撫でる。ピヨ彦の胸元に顔を埋めて息をすると、柔軟剤の向こうにピヨ彦の匂いがする。扁桃体がぐらりと揺れる(ような気がする)。ピヨ彦をぎゅっと抱き寄せながら、ゆっくりと指を背中に這わせる。ピヨ彦はオレが甘えていると信じ込んで少し笑った。指はじりじりと這っている。スウェットをかき分けて、ピヨ彦の服の裾から入り込み、指先が薄い肌に触れる。ピヨ彦が小さく、何かに気づいたように「ん」と唸った。もう遅い。
 手のひらはなだらかな背を伝う。薄く肉のある背筋を、意志を持っていやらしく撫でると皮膚がざらつきを持つ。
「や、ジャガー、さん……ちょっと」
「ピヨ彦、頭撫でて」
 肩甲骨のそばを撫でると身体全体がぶるっと震えた。ピヨ彦の手は強張りながら、またオレの頭を撫で始める。
 脇腹から肋骨を撫で上げると、額に泣きそうな息が当たる。ぴたり、と手を止めて顔を上げる。ピヨ彦と至近距離で目が合う。嫌だったか、なんて訊かない。眉を顰めるピヨ彦をまっすぐ見つめ続ける。ピヨ彦は逃げるように数秒目を逸らして、また目が合った。ゆっくり、数センチの距離が縮まって唇がくっつく。オレの頭を鷲掴んで唇を食んでくるのがたまらなくて、スウェットを掴んで引き上げた。足を巻き付けて、身体をピヨ彦にべったりくっつけて、触れているそこに手を差し込んで胸の頂点を目指す。乳首を親指で軽く押し潰すと、オレの口に入ってくるピヨ彦の息が途切れ途切れになった。下腹に血が集まっていく。ピヨ彦に押し付けると、オレの腹にも塊の存在がわかる。スウェットの下に手を伸ばす。
「やっ……待っ……、お風呂……」
「いや、もう無理、そんな暇ない」
 崩れるように押し倒すと、ピヨ彦が困った顔をしている。構わずズボンに手を差し込んで、腰と鼠径部を指で撫でまわす。
「挿れないから、抜こう、一緒に」
 ピヨ彦は眉を顰めたままオレをじっと見るだけで、首を横には振らない。それどころか、困った表情のまま、ピヨ彦の指は小さくオレの頭を撫で続けている。ズボンに指をかけて引き摺り下ろしても抵抗しなかった。胸から陰茎まで、こたつ布団の中で大事なところが剥き出しになる。
「下、脱いで。足開いて」
 ピヨ彦が足をもぞもぞさせている間にオレもこたつの中にズボンを脱ぎ捨てて、腹巻をぐっと上に引き上げた。覆いかぶさって、足の間に割り入る。柔らかい内腿が腰を挟み込んだ。ピヨ彦がさっきと同じようにオレの頭を抱え込む。キスを落とすと、近づいた距離だけ腕が締まっていく。口と口の間に熱い息だけが渦巻いている。
 腰を落として陰茎同士を押し付ける。芯を持ったそれを擦り合わせるとじわっとした快感が腰に流れてくる。温かい湯に浸かっているような快感が背骨を伝う。身体を揺らしながらピヨ彦を見つめた。目を閉じてされるがままだ。時折ぎゅうっと足に力が入って、抜けるのを繰り返している。快感に脳を浸しているのが、無性にいやらしく思えた。じっと見ていると、ピヨ彦が薄く目を開いてオレを見た。すると、ピヨ彦はオレの首に回していた腕をゆっくり動かして、またオレの頭を撫で始める。ぐっとオレの頭を引き寄せて、口やら頬やらにはぷはぷ吸い付いてきた。オレを甘やかしているつもりだろうが、餌を求める雛にしか見えない。
 腰を浮かして、さっきよりお互いに硬くなった陰茎を左手でまとめて掴む。皮を引き下ろして先端をくっつけたまま腰を動かすと、ピヨ彦がオレの頬に口を付けたまま鳴いた。つるつるの粘膜が擦れる度にピヨ彦の手に力が入って、オレの髪がぐしゃぐしゃになっていく。先端を手のひらで包むと、お互いの先走りが混ざってぬちゃぬちゃ音を立てた。ピヨ彦の腰が揺れるたびに不規則に裏筋が擦れあうのがたまらなく気持ちいい。いつの間にかお互いの陰茎は張り詰めて、腰を押し付けるとぶるりと反発しあう。耳元でピヨ彦の息が震える。
「気持ちいい?」
 そう訊くと、ピヨ彦は小さく頷いた。床に肘をついて体勢を整え、ピヨ彦の身体と隙間を作る。
「ピヨ彦、見て」
 視線を下に促すと、こたつ布団の暗闇の中で二本の陰茎が、まるでキスをしているように先端を触れ合わせている。お互いの先走りで濡れて、オレの先端から滲み出た雫がピヨ彦のと一緒になって滴り落ちて糸を引いた。真っ赤になって泣き出しそうな顔をしたピヨ彦が右手を伸ばして、二本の欲望に手を添える。既にぐちゃぐちゃなオレの左手を上から被せて、指を絡めて、ピヨ彦の手を使って扱く。オレより少しだけ小さいその手は、ギターの弦を弾く指先の硬い皮が竿を、柔らかい手のひらが先端を撫でる。楽器に触れる手が今は快感のためだけに使われている。ピヨ彦の目はまた伏せられて、眉はぎゅうっと切なそうに歪む。今度はオレから唇を合わせて舌でこじ開けた。ぬるぬるの口の中をしばらく弄っていると、ピヨ彦が顔を上に反らして息を吸った。
「はぁ、っ、ぁ、じゃがーさん、もうっ」
 右手でピヨ彦の頭を掴んで固定する。もう一度唇を捕まえて、くっつけたまま喋る。
「オレも、オレもイくっ……」
「ん、んんっ、ぁっ、あっ、あっ……っ……ああっ!」
 ピヨ彦の身体が跳ねて、手にぐっと力が入る。その刺激に追い込まれるようにして、オレとピヨ彦が精を吐き出す。ピヨ彦の腹が白く汚れる。下腹をまたぎゅっと押し付けると、お互いの陰茎がまたしばらくピクピクと小さく跳ねるのがわかる。どんどん芯が無くなっていく、濡れたままの、ぼてっとした二つがピヨ彦の腹に乗っかって、そのそばにはピヨ彦の手があって、ああ、くそ、エロいな、と思った。
 身体を起き上がらせて、机の上のティッシュを適当に何枚か引き出す。ピヨ彦の足の間から逃れて左手、陰茎の順番で拭いていると、こたつ布団が汚れないように避けて何もかも丸出しのピヨ彦がこちらを見ているのに気づいた。
 目を細めてじっとオレを見ている。じっと。妙に、熱のこもったままの目で。
「ピヨ彦、」
「……なに」
「………………」
「……ティッシュ、ちょうだい」
 やらない。じっと見つめ返すだけだ。ただ、口角が上がりそうになるのをひたすらに抑えている。
「なあ、ピヨ彦」
 ピヨ彦にまた覆いかぶさる。さっき拭いた左手を、ぐちゃぐちゃに濡れたピヨ彦の腹に添える。
「やっぱ挿れていい?」
「えっ」
 オレとピヨ彦の精液を混ぜ合わせるように、指に纏わりつかせる。
「指だけ。な? 大丈夫大丈夫、ちんぽ挿れないから」
「えっ、えっ、えっ」
 目を白黒させて、汚れてない方の手を口に当てたりなんかして、戸惑うふりをする。ふりだ。その証拠に足は緩く開いたままで、精液で遊ぶオレの手を見るだけで止めようとしない。その眼はしっかりと期待に濡れていて、もう前だけでは満足できない身体になってしまっているのがわかる。
 ピヨ彦の傍に右肘をついて、左手はわざとぐちゃぐちゃと音を立てながらピヨ彦の脚の間へと進めていく。ピヨ彦は手を口にあてたまま、小さく、あ、だとか、う、だとか喚くだけだ。オレの手を内腿が柔く挟むが、こんなの抵抗のうちに入らない。
 蕾の周りを指でゆっくりとなぞる。ローションとは違うべたべたした液体を滑らせると、そこはひくひく痙攣しながら観念したように力を抜き始めた。だんだん柔らかくなっていくそこに、浅く、つぷつぷと指の先端だけを出し入れする。ピヨ彦は枕に後頭部を押し付けてもどかしさに耐えているようで、反らされた胸がゆらりと動くのがいやらしかった。
 ピヨ彦の腹に手を戻して、精液をもう一度纏わせて尻たぶを割る。手をうずめていく。ゆっくりと、さっきよりも深く指を挿入していく。挿れて、抜いて、挿れて、抜いて、だんだんとストロークを大きくしていく。二人で出した精液をピヨ彦の胎内に塗り込むように、何往復も何往復も繰り返す。別に何の意味もありはしないけれど。だんだん精液から粘り気がなくなってきたので、指先をある一点に当たるようにして抽送を止めた。びく、とピヨ彦の胸が反ったまま固まって、小さく震える。捲り上げられたままの胸は顔と同じように薄く桃色に染まって、さっき射精したおかげでクリアになった頭でも魅力的に見えた。ぎゅっと力が入った眉毛を親指で撫でる。そのまま、前髪を掬い上げるように何回か頭を撫でた。さっきのお返しだ。
 ピヨ彦の額に手をあてたまま、ナカの指を動かす。縦笛を持った時にトーンホールの位置を確認しないように、ピヨ彦の弱点なんて手に取るようにわかる。緩く膨らんだそこ、前立腺のすぐ傍を焦らすように擦るとピヨ彦の腹がぐっと凹む。
「ふう、ぅ、ん、ん、っん……」
 耐えきれないと言うかのように、途切れ途切れの音を喉から出しながらピヨ彦が腰を捩らせる。自分の人差し指の背を軽く噛んで、その隙間からふうふうと熱い息が漏れ出ている。本当にオレを煽るのが上手い。
 揺らしていた指を前立腺にあてて、ゆっくりと押し込む。ピヨ彦の身体が波打つ。離す、押し込む、離す、押し込む。繰り返すと、ピヨ彦は頭をオレの手に押し付けてきた。また額を撫でながら、今度は押し込んだまま揺らす。ピヨ彦の中がぎゅうっと締まってオレの指を離さなくなる。ゆるく、柔らかく揺らし続けると、ピヨ彦の身体が小さく震えて皮膚が総毛立って、ピヨ彦の陰茎がヒクヒクと何度か頭をもたげた。触れている額がじわっと湿る。
「あ、ん、ん、ン……っ、ジャガーさん、ん、あっ、イッ、い、」
 オレは小さく、うん、と応えて頭を撫でる。ピヨ彦が身を捩らせて、上半身をオレにくっつける。小さく、情けなくいやらしい声を上げて身体を震わせる。
「あ、あっ……ッ!」
 ピヨ彦がスウェットの裾を掴んで引き下げる。しょろ、と微かに聞こえる音に合わせて、股間に当てられたスウェットの色がじわりと濃くなっていった。規則的な痙攣が収まるにつれて、ピヨ彦の身体から力が抜けていく。オレはゆっくり指を引き抜いて、されるがままの脚を絡めてピヨ彦を抱きしめた。

 お出かけ日和は洗濯日和でもある。コインランドリーは存外空いていた。汚れてしまった服を洗濯機に投げ込んで、外に出る。
「スーパー行こうよ、ご飯どうする?」
 どうしようかなあ、昨日は何食ったんだっけ、と返事をしたところで昨日の塩の塊のことを思い出した。急にそっぽを向いて笑いをこらえだしたオレをピヨ彦は不思議そうに見て、はっ、と一瞬気づいた顔をした後に不機嫌そうな表情になった。
「塩は、買わなきゃいけないだろ」
「……もういいから! 買うけどさあ」
 プリプリ怒りながらピヨ彦が歩き出す。その後ろをついて行く。さっきまでオレの手で震えていた様子とは大違いで、また扁桃体が揺らされるような思いがした。