犬のなく夜は【R-18】

どこかで犬が吠えた。

風呂から上がったピヨ彦にまとう湯気を、廊下の冷たい空気が逃がしていく。ペタリペタリと湿気た素足をリビングに運ぶと、待ち構えていたように笑顔のジャガーがいた。

「ピヨ彦!ちょっといいか、オレやってみたいことがあってさあ……」
「え何、またどうせ変なことしようとしてるんでしょ。巻き込むのやめてよ」
「いやオレの新たな力を試したいんだよ」

無駄にキラキラとした笑顔を近づけながら、ジャガーがピヨ彦の顔の前に一本の糸を垂らした。糸の先には5円玉が結ばれていて、残念ながらピヨ彦の予想は当たったようだった。

「なに、催眠術?」
「よくわかったな」
「わかるよそれは……」
「いいだろほら、ここに座って」
「もう……なんでそういうことばっかり思いつくのかなあ。僕そういうのあんまり信じてないんだよ」
「いいよオレが証明してやるよ。いいか見てろよ、
ピヨ彦はだんだん……」

きっと定番の「あなたはだんだん眠くなる」程度だろう。もう風呂にも入ったことだし、それなら素直に従って寝てしまえばいいだけだ。そう思ったピヨ彦に、5円玉を揺らしながらジャガーが言い放った。

「身体が敏感になって、エッチな気分になる」
「やめてよ!!!」

ピヨ彦はのけぞった。

「なんだよ、ちゃんと聴けよ」
「聴かないよヤダよ。そんなの絶対かかんないからね」
「もうちょっと、もうちょっとだけやらせて」

ジャガーが逃げるピヨ彦の腕をぐっと掴む。その瞬間ピヨ彦の内側を電気が走った。喉からヒッという声が漏れる。

「……」
「どうした?」

うつむいて顔をそらすピヨ彦に声をかけた。変わらず逃げようとするピヨ彦を、それ以上の力でジャガーが抱き寄せた。

「離して……」
「え、ほんとマジで機嫌悪くした?ごめん、ごめんな謝るから」

抱き寄せたピヨ彦の背中をジャガーが撫で擦る。

「ふ、……ぅ……」
「もう催眠術しないから、え、泣いてんの?」
「み、耳元で、喋んない、で」

ジャガーが顔を覗き込むと、泣いてはいなかったが息が荒く真っ赤な顔のピヨ彦がそこにいた。とりあえずいつものように唇を寄せると、少しの抵抗はあったが簡単に口を開いてピヨ彦が応えた。
いつもより熱い舌を吸うと、身体から力が抜け、簡単に押し倒すことができた。ジャガーがピヨ彦の首元に顔をうずめて、確かめるようにひと舐めした。

「んン、あ、ぁ」
「ピヨ彦、さっきの催眠術本当にかかっちゃったの?」
「わ、かんないよ、あっ……や、やめ、」

ジャガーが首筋に吸い付きながらTシャツの下をまさぐり、胸に触れる。一点に触れたとき、ピヨ彦の身体が大きく跳ねた。

「乳首も感じるようになってるんだ、スゲーなこれ」
「そこ…、ヤダ、ぁ……」

Tシャツをめくりあげて乳首を吸い上げる。ピヨ彦の脇腹を撫でると快感から逃げるように背中を浮かせ、頭を畳に擦り付けた。自分の手で口を塞いで、声が出ないように必死で堪えている。
可愛らしいピヨ彦の姿を見ながら、ジャガーはピヨ彦の両手首を床に押し付け、熱を持ち始めた自身の股間をピヨ彦の太ももに押し当てた。太ももがビクンと跳ねた。

「ピヨ彦、声我慢すんなよ」
「あ、ぅうっ……でも」
「今ハマーもいないよ、
 犬になれって催眠術試したら走ってどっか行っちゃったんだ」
「何してんの……」
「下脱がしていい?」

答えを聴く間もなく、ジャガーがピヨ彦のズボンに手をかけゆっくりと下ろした。

 

「や、やだ、ぁ、あっ」
「すーげぇ、チンコ触ってないのに勃ってるよ。
オレも興奮してきた……」
「ジャガーさん、もういいでしょ、催眠術解いて……」

もどかしそうに服を脱ぎ始めたジャガーに、ピヨ彦が力なく頼む。このままいつも通り触られ続けると、快感で頭がおかしくなりそうだった。

「いやオレ解き方は知らないけど」
「えっ」
「どうしたら解けるんだ?催眠術って」
「えぇ……、なんだろ、こう、パチンってするとか」
「なるほど」
「あっ顔叩くのはやめて!多分僕いま普段より痛みも強くなりそうだから……」
「了解了解、いくぞ」

ジャガーが手に息を吐きかけ、ピヨ彦の尻を叩いた。

「あアッン!」
「どう?」
「どう?じゃないよ!なんでお尻たたくの?!」
「でも気持ちよさそうだけどなあ」
「いま催眠術解く方法探してるんでしょ?!」
「ああそうか……」

ペチペチとピヨ彦の尻を何回か叩きながら、ジャガーは考えた。床に落ちた5円玉を見かけて何か思いついたようだった。

「じゃあ、別の催眠術かけるのはどうだ?上書きされて無効になるかもしれないだろ」
「わかったよ……もうなんでもいいから別のやつかけてみて」
「よーし、ピヨ彦はだんだん……」

ピヨ彦が顔の前でゆらゆら揺れる5円玉をしっかりと見つめた。

「尻の力が抜けて、ほぐさなくてもオレのが入るように……」

流石のピヨ彦も5円玉をなぎ払った。

「ほんとにやめて!!!」
「おい途中だろ!しょうがないな普通に慣らすか……」
「えっ、や、やめてまだ身体敏感なままだか、らっぁ」

ジャガーが机の下に隠していたローションを手に垂らし、ピヨ彦の尻に手を滑らせる。

「あっ、!ぁ、やだ、やめて…ぇジャガーさ……」
「あれ、なんかいつもより柔らかいな」
「や、あ、ぁッ!あんっ、あっ……」
「え、これもう入っちゃうんじゃないか?
もしかしてピヨちゃん、催眠術二重でかかってる?」

ジャガーはピヨ彦に挿れた指を増やし、お腹側をグリグリと探るように動かした。

「あっ、あ、やだ、ぁ!そこっダメ、ェ」
「中グッチュグチュだよピヨ彦、
あーオレももうダメだ、我慢できなくなってきた……」

ジャガーがピヨ彦の股を開き、ピヨ彦のそこに自身を擦り付けた。逃げようとする腰を押さえつけ、ゆっくりと挿入する。

「あぁーッ、あっアッ、ジャガあさ、ぁ、」
「うぉ、なんだこれ、柔らかいのに締め付けてくる……」

ジャガーは全て挿れ終わると、ビクビクと跳ねるピヨ彦の身体に覆いかぶさり、喘ぐだけになった口を塞いだ。舌を絡ませながらゆっくりと動き出す。

「はァ……、スゲー中熱いよ、ピヨ彦……」
「んぐッ、う、ぁ、アッ、」

ピヨ彦はもう身体を捩って快感を逃がすほか無かった。熱い塊が自分を穿つたびに射精感が襲ってくる。

「あぁン、ぁっ!ジャガ、ぁ、さ、もう、ぼく無理ッ……」
「ダメ。もうちょっと我慢できるか?」
「えっ?!あッあっ、やだぁ、イ、かせ、てよぉ」
「嘘だよ、ほら、ピヨ彦のイイとこに当ててやるから」

ジャガーが自身の先をピヨ彦のお腹側のしこりに当てて突くと、声にならない喘ぎがピヨ彦の喉から漏れる。

「~~~~~ッ!!!」

触られてもいない自身の先から、精液が流れ出す。ジャガーは締め付けに耐えるように顔をしかめたが、我慢できなくなりまた動き出す。力の抜けたピヨ彦の喉元を軽く噛みながら腰を打ち付け、精を吐き出した。

「あー、すっげえ気持ちい……」

未だ息が荒いピヨ彦にジャガーがキスを何回か落とすと、ピヨ彦が小さく呟いた。

「多分、だけど、解けてきたかも……」
「お、まじで?よかったな。またやろうな」
「絶対やだ……」

ハマーは1週間後に泥だらけで帰ってきた。