2022年8月6日 始めから壊れているの【R-15】

狭く暗い部屋に2つの影が動く。下着を膝までずらした2人は向かい合い、お互いの秘部を扱く。息を細く吐いたジャガーがピヨ彦ににじり寄ると、ピヨ彦の下唇に噛み付いた。顔の近さに焦点が合わなくなる。ピヨ彦もジャガーの唇をひと舐めして応えた。

2人は恋仲ではなかった。ただ欲望を処理するだけの関係が始まったのはふた月ほど前で、ピヨ彦が1人で隠れて処理をしていたところをジャガーに見られたのが始まりだった。それからというもの、「友達なら協力するのは当たり前」だとか、「普通みんな扱きあっている」だとか、「チンコを触る仲ならキスだってする」だとか、言いくるめられてこんな関係になってしまった。
それからというもの、週に数回、扱きあって精を放ち、ティッシュでそれを拭う日々が始まった。そして、ジャガーは時たま、事を終えて眠ろうとするピヨ彦を布団の上から抱きしめることがあった。
ピヨ彦はそれがたまらなく嫌だった。

抱きしめられる頻度が、ここのところ増えている。それは友愛のハグというよりも、何か罪を償っているような、そんな震えがあった。なんでそんなことをするのか、ピヨ彦は理解できなかった。なぜ、普通に抱きしめてくれないのか。

「ピヨ彦、どうした?」

射精もしないまま、だんだんと力を失ったピヨ彦自身を掴みながら、ジャガーが問いかけた。

「気持ち良くない?」

ピヨ彦の視界の下半分が揺れた。急いで瞬きをしても無駄だった。涙が頬を伝う。とにかく目の前の男のことが好きになってしまった。
ジャガーが手の甲を使ってピヨ彦の頬を拭う。それでは間に合わないほど涙の粒が落ちて、ジャガーはピヨ彦の目尻に唇をつけて、ちゅ、ちゅ、と吸い取った。この人は、ただの友達にこんなことをするのか、そう思うと耐えきれなくなり顔を俯かせる。裸の太腿に涙がボタボタと落ちた。
もういっそのこと抱いて欲しい、とピヨ彦は思った。友達じゃなくなっても構わない。自分からジャガーが離れて行っても構わない。たったの一度だけ抱いて欲しかった。

「ジャガーさんは、友達なら誰でも、こんなこと、すんの」
「えっ?」
「もうやだ、やだ。僕、このままだと本当に辛いんだ」
「ピヨ彦?」

ジャガーの服の胸に縋り付く。もうどうなっても構わなかった。

「抱いてほしい」

背中に置かれた手が温かかった。一度だけで構わないから、と言いかけると、ジャガーの方が先に口を開いた。

「週4くらいでもいい?」

ピヨ彦が顔を上げると、普段通りの顔をしたジャガーと目があった。

「え?」
「週4は多いか?」
「はぁ?」
「本当は毎日でもいいとこだけど、流石に…」
「ちょっと待ってよ」
「なんだよ」
「いいの?」
「いいよ、オレだってピヨ彦抱きてえよ」

あぁ〜やっとかぁ、とジャガーが上を向いて呟く。

「ジャガーさん、僕のことただの友達だと思ってるんじゃないの」
「え?めちゃくちゃ好きだよ」
「友達なら当たり前だとか、言ってたじゃない」
「好きじゃないとこんなことしねぇよ。
そうでも言わないと触らせてくれないだろうが」
「なんなの、僕今まで、ずっと」
「ずっとなあなあにしてて悪かったよ、ごめんな」

ピヨ彦の脇腹をジャガーが抱え込む。

「ステキ、これが私のものになるなんて…」