2人だけのふえ科の教室に、ピヨ彦がパラパラと漫画をめくる音だけが響く。ジャガーが寝そべっていた教卓からゆっくりと起き上がると、ドアまで歩みを進めた。ガチャリと内鍵を閉める。そのまま教室の後方まで行き、後ろのドアの内鍵も閉める。ピヨ彦は漫画から目を離さないふりをして、鍵の閉まる音を静かに聞いていた。それが合図だった。
「ピヨ彦〜」
ジャガーが講義机の間に身体を滑らせて、ピヨ彦の隣に辿り着く。なぁに、と返事をするピヨ彦は漫画から目を離していないが、ページは進んでいない。ジャガーが手の平をピヨ彦の頬にあてて、むにむにと動かす。ピヨ彦が目を閉じると、ジャガーは人差し指と中指の間にピヨ彦の頬の肉を挟んだ。
「ピヨ彦ぉ〜、触りたい」
「もう触ってるじゃん」
「いい?」
面倒臭そうな顔をしながらピヨ彦が頷く。しかし細く開けた目に期待の色があるのをジャガーは見逃さなかった。ちゅ、ちゅ、と音を立てて口を吸うと、ピヨ彦の手がジャガーの服に縋り付く。ジャガーがピヨ彦の背中に手を回して、背筋の溝を指で辿る。互いの手や唇を熱く感じた。温度が混じり合う。ジャガーが口を離すと、ピヨ彦は追うように顔を近づけてしまった。ジャガーは意地の悪そうに、ピヨ彦は顔を赤くしてお互い笑った。
「もっとチューしたいひと〜?」
ジャガーがピヨ彦の腕を掴んで無理矢理挙げる。否定をしないまま、顔を逸らしたピヨ彦は足を擦り合わせてスニーカーを脱ぎ去った。
「オレの靴も脱がせてよ」
「えぇ……?なんで……」
ジャガーの胸に顔を寄せて、足に手を伸ばす。革靴を脱がして落とすと、首筋をべろりと舐められた。そのまま抱き寄せられ、押し倒される。上顎を舌でなぞられながら、背中が痛いな、とピヨ彦は思った。それでもどうしても覆いかぶさる体温が心地よかったので、右手をジャガーの背に回して、左手で身体を支えるように机の淵を掴んだ。