12月11日
忘れてなかったら、 ジャガとピヨ
皿を洗うピヨ彦の横に滑り込んで、洗われたばかりのコップで水を飲む。コップを持つオレの左手を見てピヨ彦がそれ何、と聞く。裾から覗く手首に「ピヨ彦」と書いてあるのだ。
「…何だっけ」
「書いてる意味ないじゃん」
「なんか、なんかしようと思ったんだよ、ピヨ彦に…」
「何もしないで欲しいよ」
どこへ帰ればいい? ジャガピヨ
大きめの商業施設で、ジャガーさんとはぐれてしまった。まあ大人だし、どこかで落ちあえるだろう。ドミソドの音が鳴る。
『迷子のお知らせです。ベージュの上着、黒のジーンズ、酒留…ピヨ彦くん、えっ?にじゅう…28歳、お心当たりのある方は、』
周りの視線が痛い。早足で1階に向かう。迷子はそっちだろうが。
12月12日
わるいおとな ジャガとピヨ
飼い犬に手を噛まれる ジャガピヨ
こちらから
12月13日
ごめんね、諦めて。 ジャガとピヨ
「ジャガーさんが2人!?」
「何が?」
晴れて同居へと辿り着いた玄関を開けると、クマのぬいぐるみとオレを交互に見ながらピヨ彦がキョドッている。
「これからよろしく」
「あの、何で、何で僕なんですか?」
なんか知らないけど部屋の中央にあるクマを押し入れに適当に蹴り込んだ。
「…何でだろうな?」
信じる神様が違う ジャガピヨ
牧神パンは葦の笛を吹く。音楽を生み出し、山羊の頭、魚の下半身、高い山と深い海、全てに到達する笛の神様。たまにみんなに混乱をもたらすギリシア神話の神様。ああなんて素晴らしいんだろう。いや別に今日知ったんだけど。ピヨ彦、ピヨ彦の愛するギターは神様とかいるのかい。
「え、…ジミヘンとか…?」
12月14日
腹を括れ ジャガとピヨ
ピヨ彦が緑色の盤面をトントンと叩く。ちょうどオレも賭けたいものがある。白黒交互に石を真ん中に置きながら、「僕が勝ったら洗濯行ってよ」と言った。
「オレが勝ったら、ピヨ彦に好きって言う」
「は?」
手が止まる。
「え、ジャガーさん、僕のこと好きなの」
「だから勝ったら言うって、せっかちだなピヨ彦は」
オオカミさんの味見 ジャガピヨ
教室で特にやることもないので、外を見ながらお菓子を食べる。ボリボリと咀嚼しているとジャガーさんが長机を匍匐前進しながらやってきた。
「ピヨ彦」
「んん、」
ひとつ取り出してジャガーさんの口に手を持っていくと、手を掴まれた。そのまま顔が近づいてくる。重なる。
「チーズ味」
また匍匐前進で離れていった。
12月15日
…それを、いま言う? ジャガとピヨ
たまに笛の演奏の仕事がある。遅くなった。灯りのついた部屋がオレを迎えて、ピヨ彦が口に歯ブラシを突っ込みながらおかえり、と言った。
「鍋ん中、おかずあるよ」
ありがと、と言いながら鍋を覗く。
「ピヨ彦、ずっと一緒にいてくれるか?」
フッ、とピヨ彦が笑う。
「出会って20年経ってんのに、まだそんなこと言ってんだ」
御愁傷様、 ジャガピヨ
昼寝から目が覚めるとジャガーさんが僕の腹を枕にして寝ている。ベルトのようにがっしりと腕が回されている。動けない。トイレに行きたい。天井板がずるりと動く。
「ピヨちゃん、今日拙者のご飯あるでござるか?」
「ないけど、これ代わってくれたら考える」
「ああ、じゃあ無いってことで…」
腕がギチギチと締まる。起きてるだろ。
12月16日
恋を重ねる ジャガとピヨ
今日は日が照っている。日中は薄い上着だけで過ごせそうだ。
「ピヨ彦、もっと着な、寒そうだから」
「寒くないよ別に」
そもそも一年中同じ格好でいるジャガーさんの方が寒そうだ。自分のことはさておいて僕にニットやら厚い上着やらを勧めてくる。
「ほらこれとか」
「昨日僕の布団盗ったくせに」
「うーん」
言い訳はバッチリさ ジャガピヨ
こんにちは、とピヨひこ堂のドアを開ける。ピヨ彦さんがバッと立ち上がって、いらっしゃい、と言った。
ピヨ彦さんがジャガーさんの膝の上に座っているのが一瞬見えた。
妙な沈黙が店先を包んだ後、「サヤカちゃん、これは」とジャガーさんが口を開く。
「男子校、とかそういうノリだから」
「そうそう、そうなんだ、男子校…」
「ああっ、そうなんですね男子校…」
ここ男子校じゃないよなあ、と私は思った。
12月17日
躾はしっかりとお願いします。 ジャガとピヨ
向かいから犬がやってきた。利発そうなラブラドールレトリバーですこと。オレたちよりいいもん食ってそうだな。通り過ぎるのをじっと眺めていると、後ろからピヨ彦がオレのマフラーをぎゅっと握った。
「なんだよ、散歩のまねっこか?」
「いや、喧嘩とかしたら困るから」
「オレのことなんだと思ってんだ」
貴方だけを見つめる ジャガピヨ
「ピヨ彦、チューする時は目閉じてろ」
「えっ、だってジャガーさん目開けてるから」
「閉じてるよちゃんと」
「わっかりにくいなぁその目…」
「こういう時は目をつぶるのがマナーなんだから」
そう言ってもう一度顔を近づけてくる。待てよ、なんで僕が目を開けてるってわかるんだ。また騙されてるな、そう思いながらも受け入れるしかなかった。
12月18日
初恋の人でした。 ジャガとピヨ
「ジャガーさんの初恋っていつ?」
「笛?人?」
「人」
人かあと呟いて、ずっとうんうん唸っている。ちゃんと思い出そうとしてるのか、誤魔化そうとしてるのかわからない。そのあと30分くらいうんうん唸り続けて飽きてしまった。お茶でも飲もうと湯を沸かしていると、ジャガーさんが頬を指で刺してきた。
縁があったら、また明日 ジャガピヨ
「縁が無かったってだけだよ、運命には逆らえないのさ」
「ジャガーさんのせいですよね」
如意笛でオーディション会場を蹴散らした後、駅まで一緒に歩いた。
「あの、僕と出会わなければよかったって言ってましたよね、なんで今日もまた」
「縁って作るものだから」
「さっきと違うこと言ってる」
名前、聞いてないな。まあ、明日も会えるだろうから。
12月19日
眠ってしまおうよ。 ジャガとピヨ
「ピヨ彦よ、こたつで寝ると風邪ひくぞ」
「五七五だ」
くだらないツッコミをしてる場合じゃない。適当に敷いた布団までピヨ彦を引きずっていく。ううと不満そうな声がするが気にしない。
「ジャガーさん、」
「なに」
「ジャガーさんて、なんで僕にだけ優しいの」
くだらないことばっかり聞くんじゃない。全く。
その色は誰の色? ジャガピヨ
家に帰るとジャガーさんが赤かった。
「週末に着ようと思って買ってみた」
「似合ってるよ、サンタさん」
ピヨ彦のもあるぞ、と言いながら黄色い袋を漁る。トナカイの被り物が出てくる。
「サンタとどっちがいいかわかんないからどっちも買ってきた」
「いいよ、トナカイで」
「ほらこれ、オフショル、ミニスカ」
「だからトナカイでいいってば」
12月20日
たった一つのエンディング ジャガとピヨ
「ふえ科の恋愛シミュレーションゲームがあったとしてさ、」
「ないよ」
「ピヨ彦がどのルートを選ぶか気になるな」
「…そんなのわかってるくせにさあ」
「ピヨ彦は幼馴染のジャガーと転校生のジャガー、どっちを選ぶんだ?」
「2人いるんだ」
「15人いる」
「ジャガーさんだけで?」
「他はいない」
「新手の誘い文句ですか?」 ジャガピヨ
こたつの中で足を蹴り合ってバトルをしている。風呂に行きたくないのだ。
「ピヨ彦先行けよ、人が入った後の湯気がある温かい風呂に行きたいの」
「僕だってそうだよ」
もう埒があかない。足も疲れた。
「せーので一緒に行くか」
「なんで」
「一緒に行こうぜ、ピヨ彦…」
「耳元やめて、くすぐったいから、フフ」