2022年9月11日~20日

 

9月11日

悪夢はもう見ない、 ジャガとピヨ
ネクタイを締めていた。いつもの髪を撫でつけている見慣れない姿にえっと声が出て、ジャガーが気づいて振り向いた。
「どうしたのそんな格好」
「何って就活だよ、そろそろちゃんとしないと」
嘘、嘘だ、何で、そんな今更まともに生きれると思えるんだ、

「ピヨ彦〜どうした?なんかうなされてたぞ」

世界の終わりは、幸せで ジャガピヨ
外が明るいのに、オレたちはこんなことをしている。
ぐずぐずになってすべて終わってから、お湯を沸かしてカップラーメンに注いで待って食べ終わるくらいの時間が過ぎた。ぐずぐずになったところを拭いたタオルは布団の横でぐったりとしたままだった。
ただぼーっとしている。
汗がひいた肌がサラサラとして、布団の中でほのかな熱を持っている。触れている脚が気持ちよかった。横を向くとピヨ彦がこちらに背を向けて寝ている。脇腹に手を滑らせると、もぞりとこちらを見た。
「どうしたの」
「なんかさあ、世界が終わるならさあ、今って感じしない?」
ピヨ彦の視線が横に動いて、オレの言葉を噛み砕いている。
「なんで?」
「なんかすごい、しあわせって感じだから」
ピヨ彦が顔の向きを元に戻した。
「うーん……明日ゴミの日だし、ちょっと……」

 

9月12日

本気にしないよ、それでいい? ジャガとピヨ
「ピヨ彦、オレのこと好きか」
「んー?好きだよ」
漫画から目を離さずに言うと、はあぁ、とジャガーがうつ伏せになってため息をつく。数ヶ月前からこの質問を何度かされている。ピヨ彦は飽きてきていた。「友達としての好き」だと思い込んでいるジャガーは、ピヨ彦の指が震えているのを知らなかった。

寝惚けてた、寝惚けてたんです! ジャガピヨ
日課のトレーニングを終えて歩いて帰っていると、曲がり角からジャガー殿とピヨちゃんが現れた。ついでに付いて行こうとオーイと駆け寄ると、こちらに気づいた2人が隣り合った手をバッと動かして腰の辺りでゴシゴシし始めた。
「え、手、繋いでた?今…」
「いや、別に…」
「いやあの…寝ぼけてて…」

 

9月13日

真実って必要ですか ジャガとピヨ
「次会えるのは来年の…春か夏?秋かな」
靴を履くジャガーに、そう、とだけ言った。
「なに、そんな顔するなよ、ピヨ彦は寂しがり屋だなあ〜また帰ってくるって」
玄関先で抱きしめあった後、ジャガーは出て行った。
ピヨ彦は着ていた服の背中に強い握り跡が付いていたのを、後になって気づいた。

信じる神様が違う ジャガピヨ
「結局あの、アザミアンって何なの?」
「オレもよく知らないけど、浄化みたいなもんだ」
ジャガーが包帯でぐるぐる巻きにした十字架を押し入れに突っ込みながら、ウンウンと頷いた。
「将来入る墓のことってやっぱ気になるよな」
「なんで入ることになってんの」
「一緒にヴァルハラで懺悔しような」

 

9月14日

そんな顔して言われましても、 ジャガとピヨ
ピヨ彦が怒った。いつも通り勝手にピヨ彦グッズを作りまくっていたのがバレたうえ、調子に乗ってひみつノートの内容を最初から暗唱したのが悪かった。
部屋の隅で壁に向かって座っているピヨ彦に、ごめんごめんと言い続けると、振り向いてオレを睨んだ。
「次やったら僕は違う家のツッコミになるから」

幸せがまわる ジャガピヨ
散歩をしていたら、後ろからベルを鳴らされた。道を譲ると自転車はなぜか隣に止まって、「乗っていくか」と言った。
めちゃくちゃにボロい自転車が2人の体重をなんとか支えながら車輪を回していく。
なびくマフラーを顔に当てながら僕は、この人のデートの誘い方は何とかならないものかと思っていた。

 

9月15日

ね、可愛いでしょう? ジャガとピヨ
近くをぶらついていると、ネコが横切った。ピヨ彦が、あ、ネコ、と言って、目で追いかける。
「いいよね、飼いたいよね動物」
「飼っただろ、クヤシス」
「もっと可愛いやつがいいんだよ」
「ダメだようちはもう可愛いやついるだろ」
え〜なんのこと?というピヨ彦に向かって、オレは自分を指差した。

でも、明日怒られそう。 ジャガピヨ
ジャガーが寝ている。眺めているとピヨ彦にイタズラ心が沸いてきた。ペンでジャガーの手にばかと書いた。明日怒られるだろうか。
朝起きると、手にジャガージュン市と書いてあった。
「ジャガーさん、なんでジャガーさんの名前書いたの」
「ピヨ彦がやったみたいに、自分の物に名前書いといただけ」

 

9月16日

「新手の誘い文句ですか?」 ジャガとピヨ
ジャガーさんが月を見に行こう、と言った。
空には分厚い雲がかかっていた。公園のベンチに座ってよくある団子の3本セットを食べる。残念だったね、と言うと、ジャガーさんが2本目を手に取った。
「いいんだよ、ピヨ彦と見に来たってのが大事だから」
そういうと、半分まで食べた団子の串を渡された。

うつくしい古傷 ジャガピヨ
ピヨ彦はよくやっている。コンスタントに作品を発表し続けているし、一定のファンもいるようだ。
でもなんというか、オレと過ごした十年にあいつは囚われている。オレが丁寧につけた傷は引き攣れて、あいつの人生を少し歪にしていた。ごめんなと思った。

今日、オレはその傷をもう一度刺しに帰る。

 

9月17日

君と別れるなら、夏がいい ジャガとピヨ
ピヨ彦を自由にするなら夏だ。そう思っている。からりと晴れた空の方が心が軽いだろう。
でもからりと晴れた日は海だの山だのにピヨ彦を連れ出すのにちょうどいい。1日楽しく過ごしてしまって、タイミングを逃し続ける。
そんな話を本人にしてしまった。その夜はサンマだった。夏はもう終わっていた。

幸せの終わり ジャガピヨ
ジャガーがアーモンドチョコレートの箱を差し出す。受け取ると1粒だけ入っていた。
「食べ切っちゃうと悲しくなるから、ピヨ彦にあげる」
どういう理論だ、と思いながら箱を傾けると、奥からもう1粒出てきた。
「ジャガーさん、2つあったよ。ほら、こっち来て」
すり寄ってきたジャガーが口を開けた。

 

9月18日

こっちの台詞です ジャガとピヨ
「ピヨ彦、眠いんだろ、こっち来いよ」
「別に眠くないよ」
漫画を読み終わったところで声をかけられる。知っている。この人は抱き枕が欲しいだけなのだ。足を引きずられ、僕の頭はジャガーさんの腕に収まった。
「素直じゃないなあ、ピヨ彦は」
ジャガーさんがふうと息を吐いて、おでこが温かかった。

いっそ泣いてくれたほうがましだった ジャガピヨ
どうもピヨ彦がオレのものにならないので、無理やり組み敷いた。噛み付くように口付けて、押さえつけて、全て暴いた。思い詰めたオレの腕は冷えて震えて、ピヨ彦の身体はなぜか熱かった。息を整えながら、ピヨ彦を見下ろす。

ピヨ彦はただ、ありがとう、と言った。腕で隠されて、顔は見えなかった。

 

9月19日

いっそ泣いてくれたほうがましだった ジャガピヨ(↑の続き)
「ありがとうってなんだよ」
ジャガーさんの声が降ってくる。熱い顔を見られたくなくて、僕は顔を腕で隠したままだ。
「僕、ずっと好きだったから、この記憶で生きていけるから」
ジャガーさんが僕の腕を取る。その手が驚くほど熱かった。目が合う。見たことのない表情をしている。
「ピヨ彦、オレは」

嘘を暴く ジャガとピヨ
久しぶりにジャガーが帰ってきた。
「寂しくさせちゃってごめんな」
「いやそれは別に」
「嘘つくなよ、夜中に泣いてたの見てんだぞ」
「…は?」
「部屋に監視カメラつけてんの、結構バレないもんだな」
「……」
「なに、怒った?」
「その調子だと、ジャガーさんは盗聴器、気付いてないみたいだね」

 

9月20日

逃がさないでね、僕のこと ジャガとピヨ
「今度はどこ行くの」
うーん、と唸りながら天井を見つめる。
「トルコでサバサンド売るか、中国で上海蟹やさんでもしようかな」
ぐるりと寝返りを打つ。ピヨ彦が隣で正座をしている。
「どっちがいいと思う?」
ピヨ彦にそう聞くと、菊のマークが描かれた赤い冊子を見せてきた。
「どっちでもいいよ」

寝惚けてた、寝惚けてたんです! ジャガピヨ
物音がして起きた。トイレから光が漏れ出ていて、ジャガーが入っているのだとわかった。光に背を向けて、目を閉じる。ドアから出てくる音がした後、ピヨ彦の背に冷たい空気が触れた。布団にジャガーの脚が入ってくる。
「ジャガーさん、布団あっち」
「ああごめん、寝ぼけてるから…ちょっと詰めて」