2023年1月21日~31日

 

1月21日

お静かに ジャガとピヨ
たまには映画でも観ようかと思ったら、ジャガーさんもついてきた。
「うわ〜とかすげ〜とか、言っちゃダメだよ」
「なんで?」
「映画館はそういうもんだから」
ポップコーンをもりもり食べるジャガーさんに注意をしておく。照明が暗くなる。なんかもうすでに右頬がチリチリしている。視線がうるさい。

御冗談もほどほどに ジャガピヨ
ゴミ置き場から戻ってきたピヨ彦が、どうしましょうか、これ、と少し冷静になって言う。物は使いようだ。長ピローは肘置きにしたらいい。得点板、得点板は。
「カレンダー代わりに」
「9日分しか書けないですよ」
「でも2行あるから、お互いの予定がわかっていいだろ」
試しに書いてみる。何も予定ないな。遊びに行こうぜ、ピヨ彦。

 

1月22日

叶わない約束なんて、しないでよ ジャガとピヨ
「この戦い不利だと思う。だってオレ男だから。そりゃサヤカちゃんが気になるかもしれないよ」
怪訝そうな顔でピヨ彦がオレを見つめる。そういうことじゃない、と言うけれど条件は公平であるべきだ。
「男同士でも結婚できるようになってから、それから考えてくれよ。な、約束、な」
縋るオレの腕をピヨ彦がぐっと握った。

愛を囁け、恋を論ぜよ。 ジャガピヨ
「好きピ……か……」
覚えた言葉をすぐ使おうとする。若い子ぶっている。そんなことしなくていいのに。ジャガーさんが僕に指を差してくる。
「オレの好きピは、ピ」
「ややこしいよ」
「ピの好きピってオレか?」
「うんまあそうだけど、だからややこしいって」
「オレの好きピのピの好きピはオレ」

 

1月23日

縁があったら、また明日 ジャガとピヨ
「オレやってみたいことがあってさ」
漫才の導入のようだが、実際ピヨ彦はいつも渋りつつも聞いてくれる。そんなこんなで後ろ手縛りが出来上がった。
意外と苦しくないね〜とピヨ彦が言った瞬間、玄関のドアが叩かれる。回覧板、とケミおの声がする。ピヨ彦と目を合わせる。やばい。居留守だ。明日にしてもらおう。諦めたケミおが204号室に向かう。台所の窓から目があった。カーテン買お。

偶然と必然を重ねて ジャガピヨ
「煮干しのラーメン美味かったろ?」
親父がそう言った。何が?
「あれ、まだ行ってないのか。ジャガーくんからピヨ彦と飯行くから美味いとこ教えてくれって言われてさあ…」
ふーん、ラーメンね。お腹すいたな。ピヨひこ堂を出て家に帰る。曲がり角からジャガーさんが出てきた。
「おっ、偶然だなあ。店番終わり?駅前にラーメン食べに行かないか?ちょっと小耳に挟んだんだけど美味いらしいんだ、そこ」

 

1月24日

躾はしっかりとお願いします。 ジャガとピヨ
名前を呼びながら顔を近づけて寸止めする。するとピヨ彦が躊躇いがちに、短いキスをしてくる。大層気分がいいので何度も繰り返す。何度も何度も。そうしているうちに失敗した。教室でなんとなく名前を呼んでしまった。エッと口の形を変えたピヨ彦にごめんなんでもないと言おうとしたその時、小さい投げキッスが飛んできた。

愛を囁け、恋を論ぜよ。 ジャガピヨ
10回目の寝返りをうつと、眠れないのか、と声をかけられた。ジャガーさんが布団に入ってくる。身体を少し浮かせると右手が潜り込んできて、すっかり抱きすくめられる。胸元で跳ね返る自分の息が温い。トン、トトン、と背中を指が不規則に叩く。トトン、トン、違う。規則的だ。運指だ。これ何の曲、と聞くと、秘密、とだけ返ってきて額に息がかけられた。

 

1月25日

眠ってしまおうよ。 ジャガとピヨ
壁にギターだけ立て掛けた何も無い部屋に布団を敷く。電気を消して、風呂に入った熱が冷めないように布団で身体に蓋をする。足先だけ冷えてしまっているのを擦り合わせながら、夜が明けるのを待つ。何も無い。毎日。眠れば眠るほど、足先を温めてくれる人が帰ってくる日が近づく。いつなのか知らないけれど。

いくらでもくれてやる ジャガピヨ
「ケーキ買ってきた。食うか?」
半年ぶりに帰ってきて第一声がこれだ。箱の中を見るとケーキが2つ。ジャガーさん好みでない方を選んで、フォークを刺し入れる。見られている。掬ったケーキを顔の前にやるとぱくりと食べた。長い旅だっただろう。本当はヘトヘトなんだ、この人。ジャガーさん、もうひと口食べなよ。

 

1月26日

恋の代名詞 ジャガとピヨ
愛を囁け、恋を論ぜよ。 ジャガピヨ
こちらから

 

1月27日

いずれまた、どこかで ジャガピヨ
「ソデナっていう、竹でできた笛がある」
そう言われて連れてこられたマダガスカル。なんで僕も住むことになってるんだ。管理人さんから乱暴に渡された鍵で開けた部屋は、四角い、何もない、埃っぽい部屋だった。
「ジャガーさん、さっきの何語」
「大丈夫。ここフランス語も伝わるから」
「いや僕フランス語わかんないよ」

「新手の誘い文句ですか?」 ジャガとピヨ
調達してきた布団に寝転がる。慣れない味付けの食事でピヨ彦は少し疲れたみたいだ。
「もう帰りたいか?」
「…工芸品とかは、ちょっと興味ある」
「バオバブの置物とかあったな、いいな、バオバ笛」
「やんないよ」
「…本当に帰りたくなったら、ちゃんと言えよ」
「…いいよ、ジャガーさんと一緒じゃないと、帰りたくないよ」

 

1月28日

御愁傷様、 ジャガとピヨ
「オレのこと嫌いになったりするか?」
「どうしたの?いきなり」
いつも勝手なことばかりして。ピヨ彦だって呆れるんじゃないか、そう不安になった。
「嫌いになったりしないよ」
ピヨ彦が柔らかく笑った。
「じゃあフィギュア作っても大丈夫か?ピヨ彦の1/6スケール半裸濡れシャツなんだけど…もう金型作っちゃったから売らないとえらいことになるんだ…」

不幸の始まり ジャガピヨ
帰ってきたジャガーさんが靴を脱ぎながら大きくため息をつく。
「さっきさあ、黒猫に横切られちゃったよ」
迷信とか信じるタイプなんだ、ジャガーさん。
「わかってるけどなんかモヤっとしちゃってさ、追いかけて捕まえてきた」
えー!?だめだよ元に戻し……てくる前にちょっとだけ触ってもいいかな。

 

1月29日

寝惚けてた、寝惚けてたんです! ジャガとピヨ
ピヨ彦が机に突っ伏して寝てしまった。授業中だぞ。してないけど。なんだよ、先生のことちゃんと見ててくれよ。にじり寄っても起きない。頬をつつくと、眉間がぎゅっと寄った。面白いな。つつき続けると眉間の皺が一層濃くなって、腕を掴まれた。オレの腕がピヨ彦の顔の下に捩じ込まれて枕にされた。まいったな、これじゃ授業できないよ。

その靴を脱ぎ捨てて ジャガピヨ
今日のオレはちょっと違うぞ、とジャガーさんが言う。どこだろう。マフラー、じゃないな。髪の尖り具合もいつもと変わりない。服も別に。靴もいつものやつ。わかんないのか。わかんないよ。しょうがないなあ、とジャガーさんが靴を脱いだ。熊の柄の靴下。クリスマスにあげたやつ。気に入ってたんだあ。

 

1月30日

美しき心中 ジャガとピヨ
少しだけ曲線を描く頬と、布団からはみ出した足先が月明かりで青白く照らされている。足に触れたら冷たかった。手のひらで挟んでやる。明日は少し気温が上がるらしい。外で飯でも食いたいな。ちょっと遠くまで散歩したいな。ピヨ彦って一緒に死んでくれるのかな。寝癖、オレに直させてくれるかな。いくつ叶えてくれるのかな。

鎖骨に咲いた赤 ジャガピヨ
「ピヨ彦、キスマークつけられるか?」
「ええ…」
「マフラーで隠れるからさ、いいだろう。オレがピヨ彦のもんだって証だよ」
首にじゅっと吸い付く。つかない。もう一度。つかない。
「下手くそだなあピヨ彦。ほら、見本見せてやるよ」
首筋に口が近づく。ひょっとしなくてもこれ、乗せられたなあ。

 

1月31日

信じる神様が違う ジャガとピヨ
「ジャガー先生と暮らしてらっしゃるなんて、すごいですよね。僕だったら、…僕にとっては神のような方なので、恐れ多くて」
「いや、大変なことばっかりだよ。家事とか全部僕だし、わがままばっかりだし、そんな褒められたような人じゃないよ」
「でもピヨ彦はご飯多めによそってくれるしオレのこと好きだと思う」
「いつからいたの」

躾はしっかりとお願いします。 ジャガピヨ
そろそろご飯が炊ける。カレーもさっきルウを入れたので少し煮るだけだ。バリ、と音がする。振り返るとジャガーさんと目が合った。
「えっ!何お菓子食べてんの!?」
数ミリ顔を逸らして、菓子を口に入れた。
「ジャガーさん僕言ったよね?夜ご飯の前にお菓子食べたらダメじゃんか、えっ聞いてんの?ねえ、えっ甘、なにこれ、何味?これ」