2023年2月21日~28日

 

2月21日

好きだって言ったら殴る ジャガとピヨ
「ピヨ彦がギター科の教室に行ってた。オレみたいなやつに目をつけられたら困る」
「誰もピヨ彦殿のことなんて取らないでござるYO」
「あ?」
ビュッと音がして笛が振り上げられる。
「嘘嘘!ピヨ彦殿は魅力的だと拙者も…」
ガッとものすごい音を立てて笛が額の鉄板にめり込んだ。拙者じゃなかったら死んでるね。

どっちが、 ジャガピヨ
勉強は大事だ。アダルトなサイトで、男同士の、そういうあれを、見る。結果、オレたちは2人とも怖気付いてしまった。
「…オレ、ピヨ彦とできるんだったら、下、でもいいよ別に」
体育座りで膝に顔を埋めたピヨ彦にそう告げる。
「や、いい。僕、抱かれたいから」
はあ、とため息をつくその顔は赤かった。

 

2月22日

きみがねむっているうちにころさなきゃ ジャガとピヨ
宇宙船が爆発。生存者はゼロ。そういう夢をたまに見る。棘で身体をぐるぐる巻きにされたような感覚を振り払い横を見ると、ジャガーさんが僕の分の布団を奪い取って寝ている。布団を引っ張って身体を捩じ込むと温かかった。背中に顔を押し付けるとトクトクと音がする。生きている。僕のいないところで死ぬなんて許さない。

恋人だった ジャガピヨ
「外で待ち合わせしてデートしないか」
別にいいけど、なんでまた。
「オレたちは家族になりすぎた。ピヨ彦なんて最近オレがオナラしても『オナラした!』とかの指摘すらしないんだもん」
そう言って、自称ピカピカの服(僕には違いがわからない)を着て出掛けていった。しょうがないなあ、僕も一張羅に着替えますか。

 

2月23日

あの夏が、いまも僕を許さない。 ジャガとピヨ
「あの、心の壁って、どうなったの」
「何が?」
ジャガーさんが大福を無理に2つに引きちぎろうとして机が真っ白になっている。諦めたように半分噛みちぎった。
「ほら、夏頃にさ、僕と心の壁がって」
あー、と返事をして、半分になった大福を僕に向けてくる。手から直接食べると、ジャガーさんが「もう大丈夫」と笑った。

名もない花 ジャガピヨ
風呂場から不満そうな唸り声が響く。しばらくして風呂から出てきたピヨ彦が呆れた顔で何してんのと喚く。ピヨ彦の内腿に赤い花がいくつも咲いているのだ。
「見える場所にキスマークつけるなってピヨ彦が言ったから」
「いや量を、量を加減してよ。変な病気になったのかと思ったよ」
恋の病ですねと言うと、ピヨ彦が投げたタオルが顔に当たった。

 

2月24日

なんで怒らないの! ジャガとピヨ
こたつでだらりとしているジャガーさんにちょっかいを出し続けている。伏せられた左右の手の甲にみかんを3つずつ乗せた。髪をくしゃくしゃにした。頬を両手で挟んで変な顔にした。にしても変だな。
「なんか今日怒んないね、どうしたの」
「ん?ああ、別に」
手の甲のみかんが落ちてごろごろ転がる。
「倍にして返そうと思って…」

終末の、過ごし方。 ジャガピヨ
もし隕石とか落ちてきてここら一帯全部死んだらさ、ずっと後に掘り出されて、「寄り添いながら白骨化した2人」って名前つけられるのはどう?
不吉すぎるなあ、夜ってそういうこと考えちゃうよね。「寄り添ってチューしたまま白骨化した2人」はどう?
ふーん、めちゃくちゃいいじゃん、やってやろうぜ。

 

2月25日

桜は、まだ咲かない ジャガとピヨ
「ジャガーさん、今度はどこ行くの」
「モンゴルとかかな、変なヒツジとか、変な笛とか見てみたいから」
「いつ行くの」
「まあでも日本で桜見てからかな」
ゆっくりとピヨ彦が立ち上がる。
「ちょっと出掛けてくる」
「どうした?買い出しならオレも行くけど」
「ううん、別に。ちょっと斧買いに行くだけだから」

素直に言えよ! ジャガピヨ
ピヨ彦を羽交締めにする。前科を増やさないように。
「行かないでくれって言えば済む話だろ」
「僕の言葉でジャガーさんが何かを諦めるってのがやなんだよ!」
「じゃあ着いてきたらいいじゃん」
「…モンゴル語わかんないし」
「би энэ хүний амраг」
「びえね…?」
「これだけ覚えとけば大丈夫だから」

 

2月26日

それが恋とも知らないで ジャガとピヨ
いつもと同じく、何事も成さない教室で漫画を読んでいると机を挟んで前の列にジャガーさんが来た。
「どうしたの、なんかあった?」
「なんもない」
僕のパーカーの紐を引っ張る。
「なんもなかったらダメか?」
「いや、なんとなく僕もジャガーさん来ないかなって思ってたから」
紐が蝶々結びになっている。

ごめんね、諦めて。 ジャガとピヨ
「オレ催眠術できるようになった」
今から指でトントンって3回叩いたら手、離れなくなっちゃうから。ピヨ彦の手を握る。トントントン。
「痛っ、ねえこれギュッて握ってるだけじゃん」
「催眠術だよ、振り払ってみろよ」
「無理だよ、ジャガーさん握力すごいもん」
「オレの好きなとこ十個言ったら解いてやるよ」
「え、顔と……痛い痛い痛い」

 

2月27日

叶わない約束なんて、しないでよ ジャガとピヨ
絶対幸せにするよ。オレがそう言うとピヨ彦が眉を顰めた。もうバレちゃった。そうだよな、幸せではないよなあ。
「……うーん、あの、一緒にいて欲しい。オレも、できる限り、なるべく?一緒にいるから」
仕方ないなあという感じの顔をして、ピヨ彦の手に嵌められたものと同じ銀の輪っかをオレの薬指に嵌めた。

欲しいのは、そっちじゃない ジャガピヨ
「空気清浄機っていくらで買えるのかな」
「そうだな、オレも今日すっごい膝が痛いよ。花粉症って辛いよなあ」
鼻水とくしゃみのせいで、ジャガーさんの症状すらどうでもよくなってしまう。顔が近づいてくる。
「チューしないよ、苦しいから」
「違う。ピヨ彦に入る前の花粉全部吸ってやろうと思って」

 

2月28日

はい、あーん? ジャガとピヨ
懐から千円札を出して、おばちゃんにスパゲッティと言う。後ろに立っているピヨ彦がエッと声を出す。たまにはピヨ彦と同じものが食べたい。
ピヨ彦が食品サンプルの棚を見ながら、しばらく固まって、小銭を出しながらオムライスと言った。
「なんで、同じもんでもいいじゃん」
「ひとくち分け合ったりがいいから」

しんでるにんげんなんか、こわくないさ ジャガピヨ
塩に霧吹きをかける。ざりざりとヘラでかき混ぜて、専用の器に押し込んでひっくり返すと、塩が綺麗に円錐の形になった。
「そうやって作るんだ」
おう、と言うジャガーさんがもう一つ盛り塩を作り始める。
「でもなんで盛り塩なんて」
「お前ってチューするとこ親に見られても平気なタイプか?」
「無理だね」