4月11日
惚気はいいので、用件を ジャガとピヨ
いやお前が言うな。 ジャガピヨ
4月12日
だれにもおしえてあげないよ。 ジャガとピヨ
酔っぱらいの戯言 ジャガピヨ
4月13日
愛される覚悟をしておいて ジャガとピヨ
怒るけど、嫌わないから大丈夫 ジャガピヨ
4月14日
裏切り、ごめん ジャガとピヨ
正義の味方 ジャガピヨ
4月15日
逃げるなよ、追いかけたくなるだろ ジャガとピヨ
見逃すつもりもないけれど ジャガピヨ
2、3日前に「近々帰るよ」とピヨ彦に告げて、今日オレは日本に帰ってきた。なんとなく、なんとなく確かめたいことがあった。
ガリ寮の前に、ピヨひこ堂へ向かう。ドアを開けると、店主と目が合った。
「あれ!? ジャガーさんじゃないですか! いつ帰ってこられたんですか?」
「ああ、ついさっき。元気だった?」
サヤカちゃんって、ほんとにいい子だな。あいつには勿体無いような気もする。
「ピヨ彦さん、今日は来てないんです。電話してみましょうか」
「悪いけど、そうしてもらえるかな。オレ、裏にいるから」
わかりました、と言うサヤカちゃんを背に店の裏に繋がるドアを開ける。数年前までちょっとした休憩スペースだったそこは、ピヨ彦が珍笛作りを始めてから作業場になっている。うずたかく積み上げられた段ボール。乱暴に日付が書いてある。木材、粘土、なんだかよくわからない素材たち。少し埃の匂いのする作業台に寄りかかる。
部屋を見渡すと、なんだかよくわからない置物が増えている。ネコ? トリ? トーテムポール? 前に会った時、ピヨ彦が言っていたのを思い出す。
「別に、なんとなく作ってるだけ。それに穴開けてラビューム作って、音が鳴るだけで買う人がいるんだから変な業界だね」
ああ、この辺全部笛になるのかな。そう思うとなんとなく興奮してくる。やっぱり天職なのだろうと思う。
作業台の上には鈍く光る銀色の金属の棒やら、やすりやら、バーナーやらがあった。金属までやり始めたのか、あいつ。ピヨ彦は何をやらせても普通だと思っていたけど、それは逆に言うと大体なんでもできるのだ。でも台の上に笛になりそうなものは無い。輪っかがある。鈍く光るそれを手に取る。直径2センチくらいのそれはどうにも笛になりそうにない。平打ちの無骨なそれは、何かのパーツみたいだった。すぐに何かわかった。
すぐそばに、紺のビロードを貼った箱がある。金の蝶番。丸みを帯びた四角、高級感がある。指輪入れか、これ。ということは、これ、指輪か。
チリ、と胸の辺りで何かが擦れるような心地がした。
さっき見たサヤカちゃんの左手、薬指には何もなかった。これ、あげるのか。ああ、罷り間違って、これ、オレのだったらいいのにな。ゆっくりと指輪に左手の薬指を入れると、第二関節で突っかかった。これ以上入らない。鼻の付け根が痛くなる。銀色のそれを元の場所に戻した。後ろでドアノブが開く音がした。
「近々帰るってさあ! こんなに早いと思わないじゃん」
「ピヨ彦、」
「おかえり、ジャガーさん」
ドアを閉めるピヨ彦に近づく。足がおぼつかない。力が入っていない。バカみたいだ。ただいま、と言いながらピヨ彦に腕を回す。抱き返してくるピヨ彦を、そのままドアに押しつけた。
「重い重い! 苦しいよ」
「ピヨ彦……」
「なに、どうしたの」
「あの…………」
逃げるように身を捩らせるピヨ彦を強く抱きしめる。言わなくていいことなのに、口が閉じない。何も言わないオレの背中をピヨ彦の手が撫ぜる。鼻にあったツンとした痛みが喉まで達した。この手がずっとオレのものであったなら。勝手にピヨ彦のところを離れて世界中飛び回ったのはオレなのに。寂しい思いだってたくさんさせただろうに。もういいか、ピヨ彦が幸せなら。
「指輪……」
「指輪? ああ、あれ?」
「女の子にあげるんなら、もうちょっと、細いやつの方がいいと思う」
「え?」
「あれはあれで、かっこいいと思うけど」
「はあ、売りもんにする時は参考にするよ」
かっこいいなら良かった、とピヨ彦がオレの肩に言う。なんか変だ。腕を緩めて向き合う。
「サヤカちゃんにあげるんじゃないのか」
「え? 違うよ」
「じゃああれなんなんだ」
ピヨ彦の目が作業台の方に向く。首のあたりからボッと赤くなる。
「あれは、その、まだ、」
「誰にやるつもりなんだよ、あれ、オレ、入んなかった」
いや、その、と目を逸らすピヨ彦の肩を掴む。絶対逃してたまるもんか。
「あれ、あの、僕の、です」
消え入りそうな声でピヨ彦が言う。ピヨ彦の? コクコクと頷く。
「ジャガーさんが、次帰ってくる時に間に合わせようと思ってたのに、こんなに早いとは思わなかったから」
ピヨ彦がグイグイとオレを押しのける。オレはピヨ彦の服を掴んだまま、後ろから追いかけた。ピヨ彦がデスクライトをつける。ビロードの箱を取る。
「これ、磨くと、こんな感じになってえ……」
ビロードの箱の中、上下に2つクッションに切れ目がある。上の切れ目にピカピカの指輪が挟まっている。なんの石もない、でもライトの光を反射して銀が艶やかな光を放つ。
「これは、多分ぴったりなはず……」
ピヨ彦が振り返ってオレの目を見る。服を掴むオレの手を取ると、指を絡めて柔く握った。クッションから指輪を抜き取る。今度は第二関節を越えて、薬指の根本に収まった。
あっ、よかったあ〜なんてピヨ彦が呟く。
「ジャガーさん、どっか行っちゃうからさ、こう、離れててもおんなじみたいなものが欲しくってさあ、」
膝が折れていく。ずりずりとピヨ彦の身体にくっついたまま、しゃがみ込む。太腿に頭を押し付ける。
「オレがやりたかった!!」
屈んだピヨ彦がオレの背中を撫でる。
「やりたかったら、僕のやつ磨いてもいいよ」
そうじゃない、そうじゃないけどやるよ。オレ。
4月16日
お好きな方をどうぞ ジャガとピヨ
一時休戦 ジャガピヨ
※ジェンガをしています
4月17日
おいしいごはんになれるといいけど ジャガとピヨ
わるいおとな ジャガピヨ
4月18日
聞こえなかった告白 ジャガとピヨ
立ち向かえ男ども! ジャガピヨ
4月19日
愛を囁け、恋を論ぜよ。 ジャガピヨ
心臓が痛い ジャガとピヨ
4月20日
きみがねむっているうちにころさなきゃ ジャガとピヨ
…それを、いま言う? ジャガピヨ