surface tension 【R-18】

 水滴が落ちてバスマットに吸い込まれていく。タオルで髪やら身体やらを拭きながら廊下を進んでいくと、風が身体を滑っていくのがわかって心地いい。
 居間で寝転がっているピヨ彦を横目に押し入れを開けて、パンツを取り出して穿く。
「……ジャガーさん」
「なに」
「何回も言ってるけど……なんで着替え持って行かないのさぁ」
 オレは解放感が大事だと思うからこうしているけれど、毎回風呂から出てすぐ服を着ているピヨ彦に言ったところで理解はされない。こういう時は煙に巻く方がいい。
「嫌か? オレはピヨ彦が裸でも構わないよ」
「誰がそんな話してんの」
「オレはピヨ彦に見せてやろうかなって、そういうサービス精神でやってるけど?」
「バカじゃないの」
 もう一度押し入れの方を向いて、着替えを物色する。背中にピヨ彦の視線が刺さる。ぱっと振り返ると、ピヨ彦はわざとらしく寝返りを打ってそっぽを向いた。その間にピヨ彦のTシャツラインアップの中から大きめのものを引っ掴んで着る。スウェットの下もピヨ彦のやつ。ちょっとスライディング気味にピヨ彦の隣へ座り込むと、ピヨ彦があっと不満げな声を出して服を引っ張る。
「Lってことは、オレも着ていいってこと」
「違うよ」
「ピヨ彦はあれだろ? Mだろ?」
「半笑いで言うのはねえ、アウトだよ、別のこと言ってるでしょ。オーバーサイズで着るの、これは」
「かわいいですね、ピヨ彦くんは」
 テレビに視線を移すと、ピヨ彦はオレが着ているTシャツを手繰り寄せて、腹に腕を回した。そのまましがみついて、よじ登ってくる。背中にはピヨ彦の腹や胸がぴたりと寄り添って、肩口に押し付けられる頬が柔らかい。テレビは別にあんまりおもしろくない。身体中全部の神経がピヨ彦に触れている場所に集中してしまう。
 ゆっくり振り向くと、ピヨ彦の顔が近い。じっと視線を合わせると、ピヨ彦が数センチの隙間を埋めてきて、唇がぶつかる。口角が上がるオレを叱るように、ピヨ彦がオレの唇を食んでいる。不満げな眉毛がかわいい。
「……お風呂入ってくる」
「なんだよ、オレの裸見てやっぱり興奮したんだろ」
「うるせえなぁ、この人……」
 オレが開けっ放しにしていた押し入れから服とバスタオルを取った後、隠すように素早い動きで紙袋を掴んでピヨ彦は風呂場へ不機嫌そうに歩いて行った。紙袋には、ゴムやローションがまとめて入っている。隣町のドラッグストアで買ったとき、目隠しで入れられたそれをそのまま使っている。
 部屋から誰もいなくなって、必要もないのにテレビを見るフリをしている。興味のない芸能人の笑い声より、遠くから聞こえるお湯の音に耳を澄ませて、絶品グルメよりもピヨ彦が不満そうに尖らせた唇のことを思い返している。すっと深く呼吸をして立ち上がり、テレビを消した。押し入れの襖を逆方向に寄せて、布団を二組、畳に放り投げた。ピヨ彦が可愛いことに対する幸せなイラつきを込めて、枕を乱暴に一つの布団に並べる。
 半分に折りたたんだ掛け布団の上にごろりと寝転んで、天井を見る。昼間に干されていた布団はふかふかで気持ちいい。それにしても、なんだ、さっきのピヨ彦は。
 ピヨ彦と初めて身体を重ねてからもう両手では足りないくらいだが、ピヨ彦の方から誘ってくるようなことは無かった。キスだって抱きしめるのだっていつもオレからのような気がして、いや別にいいんだけど、受け入れてくれるだけでもいいんだけど、身体的に負担がでかいのはピヨ彦だし。でも、まあ、オレも不安になっちゃったりすることもあって。ピヨ彦の方から来てくれないかななんて思っていたりしたが、まさか、今日とは。ああいう誘い方するんだ、かわいい。
 さっきぎゅっと抱きしめられたところを自分の手で触る。むぎゅだって、かわいい。今日はどういう風にしてやろうかな、ああー、最中もピヨ彦が積極的に来たらどうしよう。シャワーから流れるお湯の音は止まっているが、多分まだピヨ彦は出てこない。あいつは風呂が長いし、それに、多分、今、洗って、自分で拡げているのだ。想像すると身体の中を行き場のない熱が走る。自分の下腹を撫でて、まだだ、落ち着け、と言い聞かせる。落ち着けと念じていたら、逆に頭の中はピヨ彦のことでいっぱいになっていく。腕を横に投げ出して違うことを考える。
 明日はピヨ彦はバイトもなく一日自由のはずだ。だからといって今夜無理をさせるわけでもないけれど、昼まで寝たっていい。そういえばピヨ彦が、行ってみたいけど入りにくいんだよね、なんて言っていたラーメン屋があった。オレも味玉が食べたいかもしれない。たまに味玉じゃなくてゆで卵の店あるけどあれなんかちょっと許せないんだよな、ピヨ彦も同じだといい。ゆでたまご。別に嫌いじゃないけど。ラーメンマンって見た目あんまラーメンっぽくないよな。中国っぽいだけで。相手をラーメンにするんだっけ? アンパンマンもそんなことしないのに、すげえなあ……。アンパンマンにもラーメンマンっているのかな、いるだろうな、あんなにいたら……。いるかどうかピヨ彦に聞いてみよ。知らなかったらパソコンで調べてみればいいことだし……。

 ふ、と目を開けると、暗かった。なんだかぼんやりと重い頭が気持ちいい。カーテンの向こうからほの明るい光が差している。なんか、体感で、6時くらいかなと思う。すこし伸びをすると、右腕が動かない。隣を見ると、オレに背を向けたピヨ彦の黒い柔らかい短い髪の毛が目に入る。かわいい。枕に沿って置かれたオレの腕に頭を乗せている。ピヨ彦を抱え込むように寝返りを打つと、口元にピヨ彦の髪があたってくすぐったい。普段よりちょっと低いピヨ彦の体温に反して、オレの身体の一部分が熱いのに気づいた。朝勃ちしている。そっと、ピヨ彦に足を絡ませて、力の入っていない柔らかい尻の肉に押し付けると、じわっとした気持ちよさが広がる。ピヨ彦の髪に顔を埋めて深く息を吸う。このまま寝込みを襲っちゃおうかな、なんて、あれ?

 バカ。オレったら、もう、最悪だ。

 じわっと汗が噴き出るような感覚が身体中を包む。やばい、オレピヨ彦が風呂から出る前に寝ちゃったんだ、なんだよ、ああ〜……起こしてくれよ……。自分勝手なオレの思いは腕を伝ってピヨ彦をぎゅっと抱きしめた。ピヨ彦は起きなかったが、ん、と唸って一瞬身体がもぞりと動いたときに尻に力が入り、オレの股間を刺激した。ぐるぐると思考を巡らせる。ちゃんと、ちゃんと考えた結果、オレは、この謝罪は身体で返すべきだというところに着地した。いや、オレの性欲がどうしようもないところまで高まってしまったというのもある。
 掛け布団の中に手を差し込んで、スウェットの上からピヨ彦の尻を撫でる。夜、オレは掛け布団の上にいたので、多分力づくでなんとかしてくれたのだろう。優しいやつだなあ。手のひらで尻の丸みを擦る。たまに指先でつっとなぞると、ピヨ彦の喉からくぐもった息が細切れになって出て、少しだけ声帯を震わせた。
 うなじに唇を押し当てて、ちょっとだけ舐める。手はピヨ彦の肌と下着の間に滑り込ませた。ピヨ彦が起きないぎりぎりを狙って、柔く揉む。指先を付けたまま、手を前の方へ回して鼠径部からピヨ彦の太ももをなぞる。温かくて気持ちがいい。そのまま、脚や尻を撫でまわした。ほんの少しだけ、ピヨ彦の吐く息に熱がこもったような気がする。一度手を引き抜いて、下着ごと、指を引っ掛けてズボンをずり下げた。片方の尻が半分くらいはみ出て、割れ目が見える。そこに指を潜り込ませる。ちょっとだけ蒸れたそこを指でそっと触れると、ほんの少しぬるついている。親指で上の尻たぶを割り開いて、人差し指と中指で、ゆっくりとそこを擦る。
「……なにやってんの」
 力はなるべく入れないようにしていたが、流石に気づかれた。上気したピヨ彦の頬に唇を押し当てる。
「ウフフ、おはよ」
「ウフフじゃない……」
 指の動きは止めずに、ピヨ彦にぴたりと寄り添う。
「昨日……オレ寝ちゃってごめんな? 悪いことしたかも」
「かもじゃないよ、今も悪いことしてんじゃん……」
 左半身をピヨ彦に乗っけて、体重をかける。勃起した陰茎をピヨ彦にわかるようにもう一度押し付ける。
「オレこんなんなっちゃって……なあ、やりたい、ダメ?」
 つぷり、と指の先を穴に挿れると、ピヨ彦が大きく溜息に似た熱い息を吐いたあと、小さく「いいよ」と言った。

 ピヨ彦の腰を浮かせて、ズボンを膝上まで下げる。「ローションちょっとだけ欲しい」とオレが言うと、ピヨ彦はオレに抱え込まれたまま紙袋を引き寄せて、取り出したローションのフタを開ける。ピヨ彦の前に手を差し出すと、粘ついたローションを指先に纏わせてくれる。やらしくてかわいい。
 穴に指をもう一度添わせる。縁をゆっくり何度もなぞると、ピヨ彦は枕とオレの腕にぎゅっと顔を押し付けて、呼吸を整えた。ひくひく収縮していたそこから、だんだんと力が抜けていく。初めてそういうことをした時とは大違いで、オレのために上手になったんだなと思うと愛おしい。
 指を突き立てて割り開いていく。一番狭いところを抜けると、柔らかくて、ぬるぬるでぐちょぐちょした粘膜が指を締め付けてくる。これもオレのために入れたローションだと思うと脳が興奮してびりびりする。ピヨ彦の首元にオレの息が当たって、ちょっとだけ鳥肌が立っていてかわいい。狭い入口を慣らすように動かしていると、ピヨ彦がオレの名前を呼んだ。
「指っ……増やして」
「え、早くないか?」
「大丈夫……もう……欲しい……」
 夜、けっこう、慣らしたから、と切れ切れに小さい声で言ってくるピヨ彦の言うとおりに、指を二本に増やす。ぎゅう、と締め付けは強くなったけれど、入った。ピヨ彦がオレの腕に頭を押し付けてくる。
「ピヨ彦、苦しい?」
 ピヨ彦は頭を押し付けたまま首を振った。何か言いたそうに唇を震わせている。ゆるゆると指を動かし続けながら、ピヨ彦の横顔をじっと見つめる。口がちょっとだけ開く。
「……きもちいい…………」
 そこからはもう、オレの指はピヨ彦をもっと気持ちよくさせるためだけに動いた。こちらを向かせたピヨ彦の口を塞いで、唇を舐めて吸って。そうしているうちに、ピヨ彦の尻にはオレの指が三本入った。
 ゆっくり引き抜くと、ピヨ彦の身体が小さく震える。紙袋をひっくり返して、ゴムを取り出す。なくてもいーよとピヨ彦は呟いたが、このままじゃオレが長持ちしない。ゴム越しにひくつくそこを感じるだけでも、目の前がチカチカするぐらい興奮している。
 入り口めがけて腰を進めながら、ピヨ彦を抱きかかえる。きゅっと引き攣るように締まったり、ピヨ彦が必死に呼吸をして力が抜けるのを味わいながら、陰茎を根元まで収めた。細く長く息を吐くピヨ彦の、服の裾に手を入れる。肉の乗っていない薄い胸板を鷲掴んで揉むと、ピヨ彦が身体を捩らせる。ふくらみのない胸で乳首だけが主張して手のひらに当たるのがいやらしい。陰茎を根元まで挿れたまま、尻の柔らかさの分だけ、沈む分だけ腰を揺らすとピヨ彦はようやく、小さく高い声を喉から漏らしだした。ピヨ彦の身体のこわばりが解けるまで、ゆさゆさ揺らし続ける。
「なあ……なんで、夜、起こさなかったの」
「おっ、おこ、し、たっ、僕」
「ほんと? なんて言って起こした? ちゃんとさあ、ジャガーさん起きて、えっちしよって、言った?」
「……っ」
 黙り込んでしまったピヨ彦を見ると、首から顔にかけて真っ赤になっている。
「あはっ、お前、言ったの」
「別に、……っ、そのままは、言ってない!」
「似たようなことは言ったんだ? あー、じゃあもう、オレが本当に悪いわ、ごめんな?」
 笑いながら言うオレに呆れたのか、ピヨ彦の身体から力が抜けたが、すぐにまた身体はびくついた。オレが陰茎を半分くらい引き抜いたからだ。
「っ、あ、あっ、あっ……!」
「ピヨ彦、こうされるの、好き? だよな?」
 前立腺の場所をゆるゆると押す。ピヨ彦の腰が反って、触れている肌に小さく鳥肌が立つ。
「ぁんっ、……んっ! んぅ、う、う……」
「他んとこがいい? 好きなとこ、いっぱい擦ってやるから」
「はぁ、、ぁ、……そこっ、……すっ……、好きっ、すきっ……」
「よかった、オレもここ好きっ……、ピヨ彦、わかんないかもしんないけど、中のヒダが、先っぽにピタってくっつくんだよ、わかる? ピヨ彦ん中、すっごい気持ちいい」
 ピヨ彦からの返事があるなしに関わらず、ただ辱めるためだけに話しかけ続けた。気持ちいいのは事実で、ヒダがつるつると亀頭を刺激する快感を歯を食いしばって逃がす。
 次第に、ピヨ彦の背中が汗ばんで、中がひくついてうねって、限界が近いことを知らせてくる。そういえば、今日は後ろと胸ばかりいじって、前は触っていない。扱いてやろうと手を前に伸ばすと、シーツを掴んでいたピヨ彦の手がぐっと押しのけてきた。
「や、……やだ……」
「え? どうした? 苦しいだろ」
「触んないで…………」
「なんか嫌だった?」
「ちが……う……」
 真っ赤な顔をしたピヨ彦が、何か言うのを迷っているように眉を顰めている。腕枕をしたままの右手を動かして、ピヨ彦が言葉を発するまで髪をさらさらと撫でた。
「……なんか、」
「うん」
「…………あの……」
「ん?」
「お尻で、イキそう、だから……」
 全身の血が沸騰したように感じた。血が巡りまくってどこに行けばいいかわからなくなっている。鼻血でるかも。
「………………マジ?」
「わかんない、わかんないけど……」
 つながっているところを動かさないように、ゆっくり上体を起こす。布団をめくって覗き込むと、ピヨ彦の陰茎はだらりと垂れたまま、布団のシーツを少しだけ濡らしている。ピヨ彦は目元に手の甲を当てて顔を隠していて、なんでそんなに情欲を煽るのが上手いのか不思議なくらいだった。
「あの……あのさ、さっきまでみたいに、動けばいいか?」
 ピヨ彦は何も言わずにひとつ頷いた。体勢を元に戻して、右手はピヨ彦の髪を撫でるようにくっつけて、左手はピヨ彦の腰を固定するように骨盤を掴む。また前立腺とヒダを刺激するようにストロークさせると、ピヨ彦の身体が小さく震えた。いつの間にこんなにやらしくなったのかわからないけれど、ピヨ彦がオレのちんぽで気持ちよくなっているのが、頭がおかしくなりそうなくらいに嬉しい。本当はがんがん腰を振って、肌と肌を打ち付けたいけれど必死に我慢して、一定の間隔でピヨ彦の中を擦り続ける。
「好きな時に、イっていいから。苦しかったり、ちんぽ触った方が良かったら、教えて」
 はあ、はあ、とピヨ彦が息を荒くする。可愛い声が聞きたいけれど、ピヨ彦が気持ちよければ今はそれでいい。それから、ピヨ彦の身体は力が入ったり抜けたりを繰り返している。枕とオレの腕に顔を押し付けて、ふうふう唸っている姿が可愛くてしょうがない。絡ませている足の指先が、開いたり閉じたりしていて擽ったい。頭の先から足の先まで、何も見逃さないように、細胞全部でピヨ彦のことを見つめている。時折かくかく腰が動いたり、尻をこちらへ押し付けようと動くのが陰茎に伝わって、オレもどうにかなりそうだった。
 ピヨ彦の身体がびく、と震える。小さく痙攣する腕でオレの右手を掴んで、オレの手のひらがピヨ彦の肩を抱く格好になるようにずらした。
「……ふ、ぅ、ッ、……ん、ん、、♡ あっ、じゃがー、さん、んっ、」
 小さく、切れ切れに何度も名前を呼ばれる。それに応えるようにぎゅっと抱きしめると、ピヨ彦の身体がより一層強張った。次の瞬間ピヨ彦は、びく、と震えて背を反らした。
「〰〰〰〰ッ!!!♡」
 跳ねる身体を押さえつけるように抱くと、一拍遅れてピヨ彦の中がぎゅうっと強く締まる。引き込むようなその動きにもう耐えられず、腰を打ち付ける。そのままピヨ彦の一番奥でオレも果てた。不規則にうごめく腸壁に刺激されて、絞り取られるように精液が流れ出ていく。
 いつの間にか、オレもピヨ彦も、額を流れるほどの汗をかいていた。脳の端っこで「もう一回風呂入らないと」と思ったが、すぐにピヨ彦と離れたくない気持ちにかき消されて、ピヨ彦を抱きしめながら身体全体を擦りつける。びしょびしょのまま混ざってしまいたい。
 ピヨ彦が身体を捩ってこちらを向く。まだ上気したままの頬。なんだか焦点の定まっていない目はオレをどろどろの視線で見ていて、たまらず唇を合わせる。ぬるぬる滑る柔らかさを感じていると、どうも勃起が収まりそうにない。張り詰めてはいないが、こんなピヨ彦を見ていてはずっとこのままだ。ゆっくり引き抜くと、ピヨ彦が不満そうな声を上げる。
「っ、ぁ——……やだ……、抜かないで……」
「……ちょっと、ゴム変えさせて、あとやっぱ顔見てしたい」
 ゴムから陰茎をずるりと抜いて、口を縛る。布団を押しのけてピヨ彦のズボンを掴む。
「はい、足上げて」
 ふわふわした顔で、オレの言うことを聴くピヨ彦。ズボンとパンツをまとめて脱がすと、白くてもちもちの蒸れた内腿が露わになる。手のひらに吸い付くみたいなそこを撫でながら、オレもズボンとパンツをまとめて脱ぎ捨てた。ゴムの封を開けたところで、ピヨ彦がオレの着ているTシャツを引っ張ってくる。
「なに、上も脱ぐの」
 ピヨ彦が頷く。なんだ、やっぱオレの裸好きなんだ。脱いで布団の横に放り投げるとピヨ彦も自分の服をたくし上げている。服が顔にかかったあたりでなんだかまたムラっと来てしまって、ピヨ彦のぽっかり開いた穴に指を突っ込む。
「んんっ……!?♡」
 じゅぽじゅぽ、ぐちゃぐちゃ嫌らしい音が部屋に響く。もちろんわざと音が鳴るようにしてかき回している。
「あっ、ぁっ、♡ やめっ、てっ、」
「はい、頑張って、ちゃんと脱ぎ脱ぎできるかな」
「…………っ、」
 ピヨ彦が力いっぱい、腕をじたばたさせてTシャツを首から抜く。視界が開けた瞬間を狙って、指の腹で前立腺をトントン押してやると、ピヨ彦は喉を反らし、腹筋がまたびくりと跳ねた。オレの指をまた食い締めながら、口ははくはくと必死に呼吸をしている。
「かわいー、……イキやすくなってんのかな?」
 涙目で睨んできたって、なんの仕返しにもならない。むしろ煽る材料にしかならず、オレの陰茎は数回扱いただけでまた復活した。ゴムを装着してまた突き立てると、最初よりも柔らかいそこが亀頭を包んで締め上げる。
 口を引き結んで衝撃に耐えようとしているピヨ彦にキスをする。唇の間に舌を突っ込むと、すっかり習慣づいてしまったピヨ彦が反射で口を開く。舌を掬い上げて、吸って、その隙に奥まで陰茎を埋め込む。
「んんっ、ん、っ……あっ! やっ、ぁ、」
 跳ねるピヨ彦の身体をあやすように髪に指を埋めて、ぐしゃぐしゃに掻き乱す。唇を離すのも惜しくて、くっつけたまま喋る。
「かわいい、ピヨ彦の中ずっとひくひくしてる。またイキそうになったら言えよ」
「〰〰〰〰ッ、も、もう、なんか、だめ、ずっと、ずっとイッて、るっ」
「あ〜最高……、どの辺突いてほしい? 言うこと聞いてやるよ、ほら」
 ピヨ彦がオレに縋るように腕を伸ばす。背中に巻きつけられた手がオレの身体を引き寄せたかと思うと、足もオレの腰にぐっと絡みついた。空気を含んだローションが潰れる音がする。
 腰を引ける分だけ引いて、あとは奥を穿つ。身体はくっついてないところの面積の方が少ないぐらい、べたべたに引っ付いて、呼吸すら似通ってしまっている。たまにびくびく動く分だけ、違う生き物だなとわかるだけだ。もう下半身だけじゃなく、ピヨ彦の頬の柔らかさだとかそういうのが全部気持ちいい。
 枕の脇に肘をついて、ちょっとだけ胸から上を起き上がらせる。なんだか眩しそうにオレを見るピヨ彦の、額に張り付いた短い前髪を指で掬い上げた。カーテンの隙間から差す光が部屋のそこかしこに跳ね返って、汗ばんだ肌をきらきらさせている。長くもないまつ毛の向こうで、ぬるい涙が今にも溢れそうに揺れて、黒目にはオレの影が映りこんでいた。

 カウンターに座ったオレの前に積まれたコップをピヨ彦が取る。寄りかかられた時に手がぶつかった。シャワーを浴びた後の肌はさらさらしている。
「よく覚えてたねえ、ラーメン行きたいって言ったの」
「だいたい覚えてるよ」
「まあね……覚えて欲しくないことまで知ってることもあるしね……」
 ピヨ彦がピッチャーから、普通にオレの分の水を注ぐ。
「ありがと、チュッ」
 真顔で小さく言ってみると、ピヨ彦はオレを怪訝な顔で見た。手元を見ていない分、ピヨ彦の水がどんどん注がれていって、こぼれた。
「あーあー」
「うわ、最悪」
 テーブルを拭く用の布巾に染み込ませられるだけ水を含ませる。机の端に寄せるとべちゃっと鳴った。ピヨ彦がひそひそ怒鳴ってくる。
「ジャガーさんが悪いよ、今のは!」
「なんだよ、チュッって言っただけじゃん」
「だめ。家でやって」
 ピヨ彦が入れてくれた水が喉を通っていく。家でならいいんだなと思った。
 はい、お待ち、という声とともにラーメンがカウンターの上にやってくる。受け皿とまとめて持ち上げると、テーブルに降ろす直前にスープが溢れて指にかかった。
「熱っ、え、こんな並々に」
「あ、ここスープ多いんだよ、大丈夫?」
「火傷したかも」
「見せて」
 ちょっとだけヒリヒリする左手の親指を見るために、ピヨ彦がオレの手を軽く握る。ピヨ彦がちらと周りを見る。手を握ったまま、なぜか、さっと口元に持って行って指先にキスをした。
「はい、おまじないね、後はコップくっつけて冷やしといてよ」
 お前、バカじゃねえの、家でやれよ、そういうの。